第8話 世間様は勝手な事を言う

 夜、家からテツヤ兄さんに電話をかけた。

「テツヤ兄さん、元気?」

「さっき会ったばっかりだろ。」

テツヤ兄さんはそう言って笑った。

「そうだけど・・・でもテツヤ兄さん、元気なさそうに見えたよ。」

「レイジ・・・。レイジは元気そうだったな。」

うっ。どういう意味だ?嫌味なのか?俺は一瞬黙る。テツヤ兄さんも黙ってしまった。次になんて言えばいいのだろうか。少しの沈黙の後、突然テツヤ兄さんが言った。

「会いたい。」

「え?」

「レイジ、今すぐ会いたいよ。」

「・・・うん。」

テツヤ兄さん・・・。俺の胸は締め付けられた。そのハスキーな声に、やっぱりゾクゾクしてしまう。

「俺も会いたいよ。会って、抱きしめたい。」

黙ってしまったテツヤ兄さん。兄さんはどう思っているのだろう。俺と、その、またエッチな事がしたいと思っているだろうか。


 永遠かと思われた隔離政策は、案外あっけなく終わった。ある日、イッセイさんと社長がまた、深刻な顔で話していた。俺はまた嫌な予感がした。そうしたら、今度はテツヤ兄さんではなく・・・。

「カズキとレイジの動画!?」

そう、俺とカズキ兄さんの仲良し動画、と言うのか、熱愛動画というのか、そういう物が出始めて、一気に広がったという話だった。その話を聞いて、タケル兄さんが叫んだのだ。

「そうなんだ。おととい、レイジが番組収録の後でカズキをお姫様抱っこしただろう?それをファンの子が録画していて、拡散したらしいのだが・・・。」

イッセイさんが言った。

「それで、一気にカズキとレイジの噂が広がったってわけですか?」

タケル兄さんが言った。

「俺は色々見たぜ。どうやら、テツヤ・レイジ推し、とカズキ・レイジ推しの間でバトルが起こっているらしいぞ。」

ユウキ兄さんが言った。

「バトル?!て何ですか?どういう事?」

俺は素っ頓狂な声を出してしまった。意味が分からない。

「つまり、レイジとつき合っているのはテツヤなのか、カズキなのかっていう話で、ファン同士が対立しているんだよ。」

ユウキ兄さんがご丁寧に説明してくれたけれども、言葉の意味が分からないわけではないのだ。どうして俺とカズキ兄さんがつき合っているなんていう噂になるのか、そこが分からないのだ。メンバー同士、それぞれ仲良くしているし、おんぶだって抱っこだって、しょっちゅうしている。カズキ兄さんにお姫様抱っこしたのだって、今回が初めてでもないと思うし、テツヤ兄さんの事やマサト兄さんの事もした事があるはずだ。それをどうして今更!

「まあ要するに、他人は勝手な事を言うって事だな。だから、気にしなくていいという事だ。」

イッセイさんが言った。そして社長が俺たちの前にやってきた。俺たちは気を付けをしてお辞儀をした。

「色々と、世間に振り回されてしまった。テツヤとレイジには、不自由な思いをさせてしまったね。すまない。結局、世間は勝手な事を言うし、それをいちいち気にしてはおれん、というのが、我々が出した結論だ。よって、今まで通りに自由にやってもらって構わない。テツヤにも、色々言われてしまったからな。」

社長はそう言って、テツヤ兄さんの方に向かってウインクをした。うげっ。テツヤ兄さんを見ると、苦笑いをしている。何か、社長に言ったのだろうか、テツヤ兄さんが。

「そういう事だから、二人とも、本当にすまなかったね。これからも、君たちをわざと隣同士にしたり、くっつくように差し向けたりはしないようにするから、ある程度は節度を保ち、自然に振る舞ってくれ。」

イッセイさんが、俺とテツヤ兄さんの肩に手を置いて、そう言った。

「はい。」

俺たちはそう返事を返した。

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