第2話

「今日もいつもの場所に行こう」、そう言えるようにするために、わたしは昼休みに教室のある校舎棟から離れたところを歩いていた。毎日通って、わたしにとっての「いつもの場所」にしてしまおう。そんなわけで、今日も芝生の陽だまりのところに行く。


昨日と同じように、周囲には誰もいない。こんなに快適な場所なのに、校舎から離れているから人が来ないのだろう。もったいない。


けれど、そのおかげで、そよ風の音が聞こえるくらい静かで快眠にはもってこいの場所になっているのだから、わたしは満足だ。


昨日は椎葉胡桃と名乗る先輩がいつの間にか横にいたけれど、今日も来るのだろうか。柑橘系の心地良い匂いのおかげで快適に眠れるから、来てくれたら嬉しいのだけど。


椎葉先輩のことを考えながら、昨日と同じように膝を抱えながら眠る。この場所は教室のある棟からは見えない。見えるとしても保健室や図書室のある特別教室のある棟の窓から。


椎葉先輩はどうやって見つけたのだろう。本が好きみたいだから、偶然図書室の窓からこの場所を見つけたのだろうか。それともわたしと同じように快適な環境を探して毎日彷徨っていたのだろうか。ここは本を読むのにも良さそうだから、椎葉先輩も去年の秋から目をつけていたのかもしれない。


そんなことを考えていると、いつの間にかわたしは眠っていたようだ。


そして、わたしを起こしたのは昨日と同じように、鼻先をくすぐる柔らかい柑橘系の匂い。


椎葉先輩の髪の毛を指先でどかしながら、わたしは薄目を開ける。太陽の光が眩しい。


「また来てたんですね」


椎葉先輩はわたしの方は見ずに本のページを捲る。


「ここはわたしのお気に入りの場所だから」


「先に先輩が使ってたんですね」


椎葉先輩はわたしの頭を肩からどかすこともなく、視線をずっと本に向けていた。静かに読書を続けている。


「わたし、もしかして邪魔でした? この場所使わない方がいいですかね?」


せっかく見つけたお気に入りの場所だけど、先に椎葉先輩が静かに一人で読書ができる場所として、ここを使い続けていたのかもしれない。だとしたら、後からやって来たわたしは邪魔者だ。


「別に。学校の土地を誰がどう使おうともわたしの知ったことではないわ」


先輩はそっけなく答えた。


とりあえず、ここから出ていかなくてもいいみたいでホッとした。先輩の許可をもらえたから、わたしはまたお昼寝の続きに入る。


そうして、また予鈴とともに目を覚ます。先輩はまたわたしに背を向けて長い足で優雅に教室へと向かっていた。


いつしかこれがルーティーンになっていた。


お昼休みに陽だまりの中で膝を抱えて眠り、先輩の髪の毛に鼻先をくすぐられて一度起きる。再び眠り、次の起床は予鈴とともに芝生の上に横たわりながら。そして、小さくなっていく先輩の後ろ姿を見つめるのだ。

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