23.なんか親友でした。



「──止まって、零矢」

「っ……」

「さっきの話、聞いてた……だろ」


 困ったことに、もう虚勢が張れなくなってきた。

 無理に引っ張り出してきた昔の自分になりきる為の仮面が、もう剥がれてきてしまっている。


「わたっ……おれ、女の子じゃないんだよ」


 気持ちは事実とは別にある。

 確かに前世では男だったのかもしれないが、それはあくまで前世の話だ。

 この世界では正真正銘『加愛夜奈美』という少女として生を受けたのだ。

 ヒロインかどうかなんて関係ない。

 ただ間違いなくこの世界で私は女だった。そう信じていた。

 いまこうして彼に秘密を打ち明ける、その数分前までは、きっと。


「今まで女の子のフリして、零矢の近くに居座ってたんだよ」


 ただの女友達だったのかもしれないけど、それでも彼に良く見られたくてオシャレをした。

 髪型も考えた。

 口調だって意識した。

 たった少し、ほんの少しでも意識してもらえるように、いろいろたくさん頑張った。


 それらすべてが、女のフリをしていた男の行動という事実として、彼の中に残る。

 

 加愛夜奈美としての役を失わなければ、タイムリープの代償にはならないから。


「……はは。騙すつもりじゃ……なかったんだけどなぁ」


 声が震えてきた。

 でも拳を握り締めて、乾いた口内に残る唾を飲み込んで涙はこらえた。

 なぜなら私は悲劇のヒロインなんて望んでいないから。

 同情を誘うような行動なんてしてはいけないから。


「なあ、夜奈美」

「こ、来ないでって……。別に気にしないとか、そういう慰めの言葉なんていらないから……」

「いやそうじゃなくて」

「もう一回言おうか? 私の前の名前は『  』だよ、どう、ゴツくて……男っぽい名前──」

「夜奈美っ!!」


 突然の大声に言葉を遮られて、つい押し黙ってしまう。

 もしかして強引に説得でもしようとしているのだろうか。

 そんなのはきっと徒労に終わるだけだ。

 どんな美辞麗句を並べられても私は──


「お前……本当に『  』なのか?」

「……なに。急に」

「いや、俺だよ! 俺っ! 『  』だよ! 覚えてないかっ!?」



「………………え?」



 彼の口から出たのは、未だに記憶の片隅に残って消えない──前世におけるかつての親友の名前だった。




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