19.初めてでした。
2018年:12月2日
気がついたときには廃墟から逃げ出していた。
頭の中がグチャグチャで、とにかく逃げなければならないと思って駆け出した。
しかしその先で追手に見つかってしまって。
けど、私を連れ去ろうとした追手たちを横から蹴り飛ばして助けてくれた人物がいた。
今はその人物と共に、もう便のなくなったバス停で座りながら休憩している。
その人物は、かつて私自身が手を差し伸べられなかった人。
今はこんな私よりもずっとずっと零矢に近くて、誰よりも長く彼を支えている人。
高校に入学した零矢が一番初めに出会った女の子。
青い髪の少女こと、河瀬雪だった。
★ ★ ★ ★ ★
2018年:12月3日
河瀬さん──いや、雪さんとの逃亡生活二日目。
雪さんから連絡を受けた怪奇研究部の仲間たちが組織を撹乱している間に、私は彼女と共に遠くまで避難していた。
今はもといた場所から県を二つほど跨いだところの遠い山奥にある、彼女の別荘とやらに匿われている。
セキュリティ完備でもしもの時は地下道を通って逃げられるとかなんとか。
彼女は何者なのだろうか。
お嬢様という噂はあったらしいが、地下の脱出ルートをこさえたログハウスの別荘を持ってるなんて規格外すぎる。
ちなみにこの場所へは雪さんが運転するバイクに乗せてもらってきた。
電車やバス、タクシーなどはすぐに逃げられず危険らしい。
……にしても雪さんの運転、かなり豪快だったなぁ。
ともかく、今日はそんな山奥の別荘への移動でほぼ一日を使ってしまったので、もう眠ることになった。大きなベッドが三つもあるから私は
……なぜか一緒に寝ることになった。いついかなる時もボクが守れる距離にいなければ、とのこと。雪さんはボクっ娘だったようだ。
早く寝るよと急かされて日記が取り上げられそうになったので今日はここまで。
★ ★ ★ ★ ★
2018年:12月4日
言うなれば、今日はずっと雪さんに介護とメンタルケアをされていた。
運命と戦わなければいけないのに身体から恐怖が抜けずまともに動けない私を励まし、世話をし、弱音を正面から受け止めてくれた。
極端な話、私は雪さんに甘やかしてもらった……のかもしれない。
まるで加奈子が隣にいてくれた時のような、心からの安心感がそこにはあった。
一度完全に打ちのめされ、零矢に全てを頼ってしまった結果として、以前のように虚勢が張れなくなった私を抱きしめながら、雪さんはずっと傍にいてくれた。
『きみがもう一度立ち上がれるようになるまで、何度だってボクが助ける。きみを守り続ける』
その言葉には、誰かに頼るだけではいけないという意味も込められていたのだと思う。
閉ざされた運命を切り開く為には、なにより自分の足で立って自分自身の意思で抗うべきなのだと。
──ずっと誤解していた。
いままで河瀬雪という少女を、零矢のことが好きなヒロインという、そのたった一側面でしか私は見ることができていなかった。
河瀬雪という少女はきっと、あの零矢以上にお人好しなのだ。
少し前まではまともな面識もなくて、こんなどうしようもない私を助けるために、文字通り全てを投げうってでも助けようとしてしまうほどの心優しい少女だ。
聞けば、雪さんは『夜奈美を探してほしい』という零矢の連絡が入る前に私を助けたらしい。
まったくの偶然ではあったが、追手を前にして腰が引けて怯えていた私を見て、事情云々を考慮する前に体が勝手に動いてしまったと言っていた。
行動力の化身とはこの人のことを言うのだろう。
思い返してみれば、タイムリープの起点である12月2日の時点で私を助けてくれたのは……雪さんが初めてだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます