18.逃避行でした。
2018年:12月6日
ずっと逃げ続けた。
零矢と二人きりで、彼に手を引かれながら宛てもなく彷徨い続けた。
携帯電話や荷物を持ち出す前に自宅を組織に襲撃され、咄嗟に私を抱えて家を飛び出した零矢は仲間に連絡を取ることもできないまま、手ぶらで街の中を逃げ続けている。
それだけ。
今日は何も起きていない。
ただ零矢と一緒に、追手や闇神から身を隠し続けている。
いや、少し違う。
零矢が私をなんとか隠してくれている、といった方が正しい。
すっかり気力と体力が無くなってしまった私を必死になって引っ張ってくれているんだ。
たった一人で、見えない大勢の敵と戦いながら。
私はそれを良しとしてしまっている。
どうしても体に力が入らなくてずっと零矢に頼っている。
こんなんじゃ駄目だって知っていても、抗おうとする心に身体がついてこない。
身を守ろうとする肉体に、疲弊した精神がついてこない。
心と体が両方ともくたばってしまっている。
このまま全てを彼に任せてしまおうと甘く囁き続ける誘惑に負けてしまっている。
だめだ わたしはなにをしているんだ
★ ★ ★ ★ ★
彼は言う。今すぐ戻れと。
追手の鉛玉に撃ち抜かれた血塗れの足を引きずりながら、私に異常な執着を見せる男に日本刀で腹部を刺し貫かれてもなお、その身一つで敵に食らいつきながら叫ぶ。
俺の仲間に頼れ。
包み隠さず全部話せ。
タイムリープだろうと何だろうと、きっとみんな信じてくれる。
過去の俺だって絶対に信じて手を貸す。
だから戻れ。
運命に屈するな。
お前の望む未来へたどり着け。
どんな世界線だろうと、必ず俺たちがお前を助ける。
至る箇所から血飛沫を上げながら、それでも一切怯まない彼のその言葉を聞いて、反射的にスマホのボタンを押した。
死の恐怖に怯えながら、巻き込んだ罪悪感に苛まれながら、無様に滂沱の涙で頬を濡らしながら──祈る。
もどれ。
戻れ。
戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ───
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