17.来てくれました。



 2018年:12月3日



 まだ廃墟から動いていない。

 動かなければ誰にも出会わないからだ。

 一応の逃げ道は確保してあるから、組織の連中が通りかかっても逃げる準備は、まぁ出来てはいる。


 もう少し。


 あともうちょっとだけ、休んでいたい




★  ★  ★  ★  ★





 2018年:12月4日


 



★  ★  ★  ★  ★








 2018年:12月5日



 いつのまにか。


 目を覚ましたときには零矢の部屋にいた。


 悪の組織よりも、両親よりも、闇神よりも先にをみつけてくれていた。


 昨日の事らしい。死体のように動かなかった私を部屋まで運び、汚れた体を拭き、ベッドに寝かせて看病してくれていた。

 目を覚ましてから狼狽えるばかりの私には事情も何も聞かず、大して噛まなくても飲み込めるような食事を用意して、頻りにカーテンの隙間から窓の外を確認しながら敵の警戒もしてくれていたようだった。


 どれくらい喋らなかったのかは覚えていないけど、窓から入る日差しが赤みを帯びてきた頃に、ようやく口を開くことができた。



 そこからは止まらなかった。

 ぽつりぽつりと呟いているうちに胸の中がざわついて、自分だけでは処理しきれない感情がどんどん漏れ出していった。


 たぶん、泣いていたんだと思う。

 みっともなく涙を目尻に浮かばせながら、これまでにあった事実を必死に零矢へ向けて訴えていた。



 実験動物として親に売られたことを。

 組織から逃げ回っていたことを。

 闇神臨十という男の存在を。

 時を遡って未来から逃げてきたことを。

 これが三度目の12月5日だということを。


 本当は零矢の死を目の当たりにした時から、既に折れかけだった精神を無理やり誤魔化して、前世の男だった頃を思い出して、虚勢を張りながら抗っていたことを。


 悪の組織と闇神の板挟みになりながら、それでも必死に私を守ってくれて、誰のものかも分からない凶弾に撃ち抜かれてもなお逃がそうとしてくれた加奈子のことを。

 

 そして最後は、無様に『助けて』と吐露した。


 河瀬さんがいたあの屋上から一人で逃げたことを棚に上げて、我が儘を口にした。

 相手の事情など欠片も考慮せず、許容量を超えた自分の心に負けて感情のすべてを打ち明けた。

 それが零矢にとってどれほど迷惑で、自分に対して都合がいいのかを理解しながらも、私は我慢ができなかった。



『──ありがとう』



 零矢はそう言った。

 打ち明けてくれてありがとうと、そう言ってくれた。

 タイムリープだなんて荒唐無稽な話を、あろうことか本当に信じてくれた。

 力になると。頼ってくれと。

 そう言って私の手を握ってくれた。


 それからひとしきり泣いて、また泣き疲れて眠って、起きてこうして日記を書いている。

 明日のことは分からないけれど、まだ多少抗う気力は残っていると、そう自覚することくらいは出来たのだった。



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