13.遡りました。


 2018年:12月7日



 今日は一日中河川敷の下にいた。

 そろそろ自分の体臭が気になってきたので一応川で水浴びはしたけど、今は真冬だし寒すぎて死ぬかと思った。ぶるぶる。


 一応のシャワー(水)を終えて冷静になったあと、ホームレスおじいちゃんがくれた比較的綺麗なブランケットを羽織りながら、改めて情報整理をしてとある仮説を組み立ててみた。



 まず一つ目は、この世界は何かのアニメかゲームが元になっている世界だ、という考え。


 前にいた世界と違って不思議な力がたくさん存在すること、不自然なほどに零矢を中心としてトラブルや事件が発生していること、なにより闇神君……いや、闇神の言葉を聞いたことでこの仮説に至った。

 これまでチートみたいに強くて怖いぐらいにモテモテな零矢を見ていたので、一応前々から考えていたことではある。


 二期、という言葉の意味だが、これはテレビ番組によく使われるワードとしての『二期』という意味で捉えることにした。

 初回1クールの放送が終了して、続編として扱われる作品が放映される際に使用される二期という言葉として、だ。


 次に二つ目だが、俺……というより『加愛夜奈美』という少女が、この世界の物語における一キャラクターだという考えだ。


 両親が悪の組織の研究員で、なんかヤバそうな遺伝子サンプルを投薬され、逃亡生活を余儀なくされるモブなんて流石に聞いたことがない。

 そんなに個性が出ていたら最低でもサブキャラ程度にはなるはずだ。

 つまり設定盛り盛りの俺はモブキャラではない可能性がある、ということ。


 そして最後の三つ目が、あの闇神臨十という少年が別世界から来た人間だというものだ。

 彼の発言や今までの行動から推察して、闇神はこの世界の元となった作品である『原作』を知っているのかもしれない。

 二期の中盤という言葉は、おそらく今の時期がこの世界の原作アニメの2クール目の途中、という意味なのだろう。



 結局仮説はどんな結論に至ったのか?



 それは闇神臨十が俺と同じ『転生者』で、彼の目的は加愛夜奈美を自分のものにすること──なのかも。

 いやもちろん自信があるわけではない。

 でも発言から考えるとこれが一番しっくりくるのだ。

 

 ここからも完全に発言からの推測だが、まず加愛夜奈美は原作におけるヒロインの一人で、彼女を助けてハーレム入りさせるのがこの二期中盤の物語の流れだとする。


 で、闇神は何故だか知らないが原作の加愛夜奈美をいたく気に入っていたため、転生する際に神様に頼んで加愛夜奈美と主人公たる凛条零矢に呪いをかけた。


 夜奈美おれを攻略するストーリーが始まるまで、零矢あいつと俺を接触できなくする……なんて呪いを。


 何故そこまでするのかは分からない。

 原作における夜奈美はよっぽどの人気ヒロインとかだったのだろうか。別におっぱい大きくないが。

 というか、その夜奈美の中身が元男の俺だと知ったら──はどんな感情を示すのだろう。


 ……あと、この仮説が合っていたとしたら闇神がちょっとズルい気がする。

 俺は死んでも神様になんて会わず問答無用で夜奈美に生まれたというのに、あいつは強い力を貰うばかりか神様から手助けもしてもらってるなんて明らかに不公平だ。

 神様という存在は割とクソなのかもしれない。


 っと、少し長くなってしまった。

 今日の日記はこれくらいにしておこう。

 ホームレスのおじいちゃんには助けてもらってるし、ゴミ缶拾いくらいは手伝わないと。











★  ★  ★  ★











 

『てめぇ凛条! 夜奈美をどこに隠しやがった!?』


 ──やめてくれ。


『女に囲まれてるだけの原作主人公がぁ……ッ!!』


 なんでそんなことするんだ。


『夜奈美は苦しんでんだよ! オレが救ってやらなきゃダメなんだ! あの子の想いを無視してハーレムしてたお前には分からないだろうが!』


 おねがいだ、やめてくれ。

 もうやめて。

 やめ──


『……ったく。特典のチートを貰ってるオレに勝てるはずねぇだろ』


 あ。


『夜奈美! よかった、無事だな!』


 …………あぁ。


『汚いおっさんと一緒にいて怖かったろ? お前を無視して他の女と戯れてたクズの方も俺がぶっ殺しておいたからな! 安心しろ!』


 そうか。


『へへっ、これもお前を助けるためさ。……いや、焦らないよ。オレも性急すぎたよな、悪かった。これからは少しずつ仲を深めていこうな』


 お前は。


『ハーレム野郎と違ってオレは一途なんだぜ?』


 お前は──


『オレはずっと夜奈美の味方だからな!』



 ────
























「ああぁあ゛あああ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛!!!」




























 あぁ。



 ────世界が逆行している。






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