12.逃げ出しました。
2018年:12月4日
困ったことになった。
いや最近は常に困ってる状況なのだが、何というか事態が悪化してしまったのだ。
端的に言うと闇神君が零矢と敵対してしまった。
なぜだか昨日出会ったばかりの俺の肩を凄く持ってくれて、挙句の果てにはこの追い詰められた状況の俺を助けなかった零矢を責め立てるように言葉で攻撃する始末で、どうにも居心地がよくなかった。
零矢が俺を助けなかったのは、そもそも俺が助けを求めなかったからだ。
連絡手段は手元にないし零矢が俺の状況を知ることは不可能に近い。
剰え物語云々で色々な敵と戦っていて忙しい零矢が、此方まで手を伸ばせるとは思えない。
むしろ何も教えていないのに、街中を駆けずり回って俺を探していた、という事実に驚いたくらいだ。
なのだが、闇神君は『夜奈美は悲しんでいる』とか『お前に夜奈美を守る資格はない』だとか色々言いたい放題だった。
今の俺の状況やこの世界の様々な事情に精通しているだけでも不気味なのに、終いにはイケメンスマイルで『行こう夜奈美。お前はオレが守る。守ってやれるのは俺だけなんだ』と言って手を引かれそうになり、思わずビビッて手を引っ込めてしまった。
無償で助けてくれている闇神君には申し訳ないのだが、少しだけ彼が怖い。
どうして何でも知っていて、零矢を目の敵にしていて、出会ったばかりの俺に対して過剰なほどに馴れ馴れしいのか、まるでまったく分からない。
だって、彼は何も教えてくれないのだ。
事情を知っている理由を聞いても、自分の頭を押さえて『君は知らない方がいい』とカッコつけながら言うだけで何一つ喋ってくれない。
そんな相手をどうして信用できようか。
せめて少しでも自分のことを話してくれれば、俺だって信じられる。
こうして助けてくれた恩人なのだから、本当はもっと信用したい。
無償で助けてくれたことに関しては冗談抜きに心の底から感謝しているのだ。
だが、彼は話してくれない。
なので今日も少しだけ距離を置きつつ、俺は闇神君の家で縮こまるのだった。
★ ★ ★
2018年:12月5日
★ ★ ★
2018年:12月6日
逃げるのに必死すぎて安全と思われる場所に着いた瞬間、泥のように眠ってしまったので昨日は日記が書けなかった。
今いる場所は橋の下の河川敷だ。
咄嗟に隠れられる隙間もあるし、先住民らしきホームレスのおじいちゃんが缶詰を譲ってくれたので今は何とかなっている。
警察官が通りかかったときも俺を隠して庇ってくれたおじいちゃんには頭が上がらない。
とりあえず、俺がまた逃げることになった理由をまとめよう。
今朝方トイレに行ってから闇神君の部屋に戻ろうとしたとき、ドアの向こうから怪しげな言葉が聞こえた。これの内容はしっかりと覚えている。
『おっかしいな』
『神様の話が正しければ俺が頼んだ呪いで夜奈美は凛条と半年以上接触をしていないはず』
『ちょうど今は二期の中盤だから夜奈美は一人で組織に追われてるはずだよな』
『孤独になってるとこを助ければすぐに堕ちると思ったんだけど……好感度がまだ足りないのか?』
『はぁ……流石にエロいこと出来んのはまだ先になりそうだなぁ……』
ボソボソと口にしていたその言葉の意味を理解するよりも先に──俺はすぐさま彼の家を飛び出した。
直感的にあの場にいてはいけないと思ったからだ。
いや、本当に意味が分からん。
何を言ってるんだ彼は。
神様だとか呪いだとか好感度だとか、ごちゃごちゃ言っていたが、確実に良いものではないだろう。
あのまま一緒にいたら何をされていたのやら見当もつかない。
まちがいなく感謝していた。
信じたい恩人だった。
俺に前世の記憶が無ければコロっと堕ちてたくらい、窮地を救ってくれたヒーローだった。
しかしあの発言はどういう……だめだ、頭がパンクしそうだ。
とりあえず寝よう。
あとは一旦寝てから考える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます