11.拾われました。


 2018年:12月2日



 とりあえず三十分ほど仮眠して冷静になり、両親から逃亡しているのだから少なくとも自宅には帰ってこないだろう──という心理を逆手にとって、まだ組織の人間が誰もきていない昨日の夜中のうちに一旦帰って、最低限の荷物と前に使っていたSIMカードが抜き取られていてどことも繋がらないケータイを持ってすぐに家を出た。


 つい昨日まで使っていたスマホは、日記の情報が入っているSDカードだけ抜いて近所の川に捨てた。

 つまり今はSDを入れ直した昔のスマホで日記を書いている。

 この本体は完全にオフラインだし、そもそもかなり前に乗り換えた機種なので多分大丈夫だろう。


 今はスーパーで買ったクッソ安いおにぎりとお茶を胃の中に詰めながら、街はずれで偶然見つけた一軒家の廃墟の裏で日記を書いている。


 さて、これからどうしたものか。

 どう考えてもただの女子高生である自分が悪の組織から逃げ続けられるとは思えない。

 せいぜい二日か三日、良くて一週間が限度だろう。

 金も食料も多くはない。


 誰か頼れる人は……あー、いないな。

 もちろん友達は巻き込めないし、こういうときに信用できる大人の知り合いなんて居ないし。


 零矢? まさか。

 いまさらどの面下げて会いに行くってんだ。

 まぁ、悲劇のヒロインぶって『助けて……!』とか言いながら縋り付けば、主人公だから助けてはくれるんだろうが──やだ。


 はい、嫌です。

 俺はモブなんだし、そもそも主人公のハーレム入りなんてこっちから願い下げだ。

 いつもヒロインたちに囲まれながら鼻の下伸ばしやがってアイツめ……。


 ともかく今は自分しか頼れないのだから自分でやるしかない。頑張って生き残るぞ!




★  ★  ★




 2018年:12月3日



 わずか一日にして状況が変わった。良い方か悪い方かで言えば、たぶん良い方向で。


 コソコソと街の中を逃げ回っていたら、見知らぬ男の子が助けてくれた。

 話を聞くと彼はどうやら同級生で、俺とは別のクラスに在籍しているらしい。


 なぜか悪の組織や怪奇研究部の詳細を既に知っているその男の子に連れられて、今は彼の家で休ませてもらっている。一旦落ち着ける場所に来れたので日記を書いている、というわけだ。


 では、まず件の男の子について情報を整理しよう。


 名前は闇神やがみ臨十りんと……くん、というらしい。

 なかなか凄い苗字と名前だ。つよそう。

 そんな少し変わった名前の闇神君だが、外見は普通の帰宅部男子という感じだ。

 イケメンって言われればまぁそうかもしれない。


 次に面識についてだけど、これは本当に今日が初対面だ。

 会話はおろか顔すら見た覚えがない。

 同じ学校に通っているとはいえ、クラスが別なら知らなくとも当然だが。


 そんな初対面のはずの闇神君はどうしてか俺の名前を最初から知っていた。

 それどころか苗字じゃなくいきなり『夜奈美! 助けに来たぞ!』と下の名前で呼ばれたのは驚いたな。


 正直誰だお前って感じだったが、助けてくれるというなら猫の手も借りたい状況だったので素直に協力を求めて拾ってもらった。



 ……なんだろう、彼は。

 零矢が主人公だというなら、闇神君は外伝の主人公とかなんだろうか。

 帰り道の途中で現れた怪物もあっさり倒してしまったし、怪奇研究部のみんなと同じく特別な能力を持った人間ってことは確かだ。


 ともかくこの状況で寝床が確保できたのは大きい。

 助けてくれたことには感謝しているが、一応闇神君のことも少しだけ警戒しつつ眠って体を休めよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る