8.目撃しました。




 2018年:10月12日



 怪奇研究部の活動の様子が気になって、彼らのあとをコッソリつけてみた。 

 そしたら皆は、廃ビルの中で怖い男の人と戦闘になって。能力なのか分からないけど、みんな火の玉とか氷とか電気とかぶっ放してた。

 いつの間にかモリちゃんも戦闘要員になってたのか、大きな盾を持って皆を守っていた。


 でも、やっぱり零矢が一番強いみたいで。

 普段は赤色のガントレットが銀色に変色すると、あっという間に男の人を倒してしまった。

 そして男の人が身に着けていたネックレスを破壊すると、その中から緑髪の無表情な女の子が出てきて、表情を動かさないまま涙を流した彼女はいつの間にか零矢に抱きついていた。


 また増えた。

 これで五人目だ。

 チートみたいに強い力で悪い敵をやっつけて、そのたびに可哀想な目に遭っている女の子を助けて、その子たちは皆零矢のことを好きになって、彼は拒まずに彼女らを受け入れる。


 詳しいことは知らないが、零矢は彼女らのうちの誰かと、既に付き合っていたりするのだろうか。

 基本的にはメンバーみんな仲良しだが、お弁当を作ってきたり色々なアピールを零矢にするときは、みんなバチバチと火花を散らしていた気がする。

 余裕ありげな態度を取る子は一人もいないので、やはりまだ交際には至っていないのだろうが。


 それから、ガントレットを赤から銀にパワーアップさせたデメリットなのか、零矢は戦闘後にかなりフラついて転びそうになっていた。


 そこで思わず飛び出しそうになった──が、彼のことはその場にいる全員が抱きついて支えた。

 邪な感情があるのかも分からないが、仲間である彼女らには当然その権利があって。

 みんなが心配して支えてくれたことが嬉しかったのか、顔を赤くしつつも零矢は笑っていた。



 それを見た瞬間に視界がボヤけて、胸が締め付けられた。

 そして何より、顔を上げて私と目が合った零矢が嬉しそうな表情をした──なんて醜い勘違いをしてしまった途端に嫌悪感が脳内で駆け回って胃の中のものを吐きそうになり、急いでバレないよう静かに廃ビルから去った。


 目が合った? 私を見て嬉しそうな表情をした? ──気持ち悪い。

 勘違いも甚だしい。

 あの屋上で戦っていた彼と河瀬さんを置いて我が身可愛さで逃げ出して、モリちゃんのように恩返しとして彼のために何か行動を起こしたこともなく、アピールも戦いも必死に頑張っている他の女の子たちと違ってただ傍観していただけの私が、いまさら零矢の眼中にある筈がない。


 ──あぁ、そういえば。


 彼と会話をしなくなって、もう半年になる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る