7.離れました。

 2018年:6月14日



 今日は休日。

 そういえば高校に入学してからほとんど零矢とは遊んでいないな、と思って零矢の家に向かった。スマホの不調なのか、メッセージが正常に届かないので直接向かった。


 いまの彼は物語の主人公なのかもしれないが──主人公だって四六時中危険に身を投じてるわけではないだろう。

 大して描写されなくても『休日は久しぶりに友人と遊んだ』みたいなモノローグが入ることだってあるはずだ。


 だから私と遊ぶのもそういった何気ない日常的な事なのだと、そう自分に言い聞かせれば彼の家へ向かう足も軽くなった。


 でも到着したときには、零矢の家の玄関前には不思議な雰囲気の小さい女の子がいて。

 それからなんやかんやあって、零矢はその幼女を家に上げた。

 数分経ったら河瀬さんも彼の家に来たし、私は早々に引き上げた。


 なんだよ、もう。

 どう見たって重要なイベントじゃん。

 そうなったらモブの私が家を訪ねることなんてできるわけないじゃん。


 ……ちょっと文句が出てしまったけど、今日は一日中家で猫と戯れていたから、精神的には幸せな方だ。

 現在の零矢は色々な人の運命を背負っている主人公なのだから、こういうことだってある。

 どうせ近いうちにまた遊べる機会はできるだろう。


 でも事情ありきとはいえ家族や親戚でもないロリっ子を家に上げるのは感心しないぞ。

 河瀬さんが来なかったら私が突撃してかもしれないぞ。気をつけなさいよ、ホント。



★  ★




 2018年:7月25日



 今日は、ちょっと気分が上がらない。日記を書いたら早々に寝ようと思う。



 昼休みは珍しくモリちゃんがうちの教室に来なかった。スマホには『本当にごめん! 今日は部活仲間とご飯食べる!』といったメッセージも来ていた。


 気になって怪奇研究部の部室を外からこっそり見てみると、モリちゃんの他にヒロインの二人、零矢、それから以前見かけたロリっ子もいた。

 もしかして部室で匿っているのだろうか?

 多分昼休みくらいは彼女を一人にしたくなくて、皆して集まって昼食を食べていたのかもしれない。


 モリちゃんは他の誰かとご飯を食べるときもいつも私を誘ってくれるが、あの幼女の事は絶対秘密にしなければいけないからこそ、今日は私とのお昼を断ったのだろう。

 しょせん私は友人Aに変わりないのだから、当然と言えば当然だ。


 モリちゃんには後から大袈裟なくらい謝られたし、私もこれだけでショックを受けるほどナイーブな性格ではないので「気にしていない」と言っておいた。


 

 でも、ちょっとだけ。

 怪奇研究部のみんなと一緒にご飯を食べている零矢を見て。

 私によく見せていたあの屈託のない笑顔を、四人の女の子たちへ向けているその姿を見て。

 ここ四ヵ月は私の前でその顔をしていない──彼と会話すらしていない事実に気がついて。


 ほんの少しだけ、心がチクリと痛んだ気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る