第33話
※
あれから何分、否、何時間たったのだろうか。
守の襲撃で背中を負傷、恵流に庇われ命からがら“書天堂”に逃げ込んだ。今も息を殺して本棚の陰に潜み続けている。
諦めてくれたのだろうか。
「ごめんね。結局、守ってもらっているのは僕の方だ」
隣で身を寄せる恵流に、小声で申し訳なく
「私がいなかったら、殺されていたでしょうね」
安路だけなら、とっくに金属バットの錆びになっていただろう。
か弱い乙女のために戦うのが本来の立ち位置。しかし、蓋を開けてみればこの有様。あべこべである。
「でも、それでいいの。あなたは頭脳担当。悔やむ暇があったら脱出の手段を考えなさい」
責めるだけでばつが悪かったのか、恵流は付け足しのように命令した。
「……」
「……」
沈黙の時間が流れていく。
書店奥に位置する成人本コーナーの一角。
むせ返るほどのピンク色に囲まれた空間で、女子高校生と二人きり。
ドキドキと胸の鼓動が激しくなるが、背徳的シチュエーションに戸惑っている場合じゃない。
これからどうするべきか。
安路は頭を静かに
書店外の状況は不明だが、良好とは程遠いのは明らかだ。その内誰かがやってくるはず。春明や明日香はまだしも、守に遭遇したら今度こそ逃げられない。
ずっと隠れるのも問題だ。こちらは依然丸腰、武器の一つでもなければ抵抗すらままならない。今のうちに隠しアイテムを探す方が良いかもしれない。
「あのさ、武器を探しに行こうと思うんだけど」
沈黙を破り、安路は小声で提案をする。
「アテはあるの?」
「それは、ないけど……」
既に判明しているクロスボウ以外、目星は全くない。そもそも、まだ隠しアイテムがある、という想定自体希望的観測だ。すでに
また、恵流をどうするか、というのも問題だ。十八禁コーナーから出るのは、彼女を危険の渦中に飛び込ませると同義。かといって、一人残すのも危険極まりない。安路がいなくなった後、入れ替わりで守がこの場所にやってくれば、一巻の終わりである。
動くべきか、留まるべきか。
優柔不断にも迷っていたところで、
「いいわ。行きましょう」
恵流がすっくと立ち上がった。
「逃げ回っているだけじゃ、デスゲームを生き残れないもの」
きりりとした瞳、固く結ばれた
戦う覚悟を決めた恵流は、目もあやな姿を現していた。
ゲーム開始からおおよそ六時間前後。
二人は書店の
「うっ」
通路にはみ出した惨状に、安路は思わず顔を
衣料品店から中央の部屋に向けて伸びる三つの赤、血の
何が起きたのだ。
そっと衣料品店を覗くと、店内は大災害を受けたと
では、血の轍はどうだ。
血を
となると、死体は椅子に座らされたのだろう。
轍は全部で三つ。ならば運ばれた死体も三つ。織兵衛を除く六人の内、安路と恵流以外の四人から死体の数を引けば、あとは一人だけ。
身を隠している間に、生存者はぐっと数を減らしていた。
全員で生き残ると意気込んで、現実は御覧の通り。
安路は
失われた命は戻ってこない。
だが、惨劇を生き残った者が一人いる。
何もかも遅いかもしれないが、それでも、共に脱出する道を諦めたくなかった。
もっとも、目の前に拡がる最悪の景色に、淡い希望は音を立てて崩れ去るのだが。
「……あ」
コンクリートで囲まれた四角い部屋。等間隔で設置された無骨な椅子に、四人が
死体まみれの
生きたまま椅子に縛り付けられて、好き放題春明に殴られていた。
しかも、とどめとばかりにナイフの切っ先が向けられている。散々いたぶった挙げ句、殺すつもりなのだ。
「瀬部さん、やめて下さい!」
無意識だった。
相手が刃物を持っているとか、自分が丸腰で
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