第17話
※
籠が宙を舞う。
餌用の器に猫砂など“犬猫畜生”の商品が次々と打ち壊されていく。
「ああクソッ! ざけンなよッ!」
荒れ狂う守。金属バットを振り回し、目に付く物を片っ端から叩き潰している。
まさか、あの程度の蹴りで死ぬなんて。
織兵衛の
これだから年寄りは嫌いなのだ。少し小突けば大怪我、寝たきり、すぐに死ぬ。そのくせ口は達者で権利を主張し、現役世代の足を引っ張る
その結果、この始末である。
平和主義の安路と恵流はまだしも、残りの参加者は下手人を椅子に座らせようとするはず。罪を
「クソジジイのせいで、娘と離ればなれじゃねーかッ!」
渾身のフルスイングがペット用の衣服を根こそぎ叩き落とす。
来週、娘達の幼稚園で参観会があったのに。どうやら今後一切行けそうにない。
父親として、子供の成長を見守れなくなってしまう。
否、それだけではない。
これから先、娘達は人殺しの子供として非難される人生が待っている。近隣住民から、全国津々浦々の人々から、「我こそは正義」という取材陣に責め立てられるのだ。
被害者加害者遺族親族の気持ちを無視し、身勝手なマスコミが
「大体“罪を悔い改めし”ってなんだよ!? オレの
振り下ろされる金属バットの一撃。犬小屋は粉砕されて木片に。床で跳ねる乾いた音色が
守はかつて罪を犯した。それは覆らぬ事実だ。
しかし、その件に関しては決着がついている。少年院でお勤めも果たした。社会復帰の儀式は済んでいるのだ。
それなのに罪人扱い、デスゲームなんてお門違い。何故巻き込んだ。おかげで、事故とはいえ人を殺してしまった。主催者達のせいで、“悔い改め”る罪が増えたのだ。
「ん、ちょっと待てよ。なら、あのジジイもオレと同じなのか?」
激情に任せていた腕がぴたりと止まる。
仮の話として、過去の罪が原因でデスゲームに参加させられたとしよう。それなら織兵衛、
つまり、この場にいる全員が同類。
珍しく頭を使っていると、
「ジジイって、“罪を悔い改め”たのか?」
椅子に座れるのは“罪を悔い改めし者”という条件のはず。
では、織兵衛はどうだろうか。
過去の罪状は不明だが、死ぬ直前の彼は見るに堪えぬ醜態であった。人の物を横取り、子供のように駄々をこねたのだ。娘がやるなら可愛いが、小汚い老人ではおぞましい。欲深い豚そのもの。“罪を悔い改めし者”とは程遠い姿だろう。
だが、椅子に座らせた瞬間、モニターの名前が消えた。彼が“罪を悔い改め”たとして扱われ、一人目としてカウントされたのだ。
違う、そうじゃない。
そもそも前提が間違っているのだ。
椅子に座れるのは“罪を悔い改めし者”のみ、ではない。
椅子に座ることで“罪を悔い改めし者”として認定されるのではないか?
「オイオイ。それってよぉ、いけンじゃねーか?」
残りの参加者を殺し、六人分の死体が座れば試合終了。残った自分は晴れてここから抜け出せる訳だ。
安路は必死に「特例だ、あり得ない」と説得を試みていたが、彼の危惧していたのはこの結論に至ることだったのだ。今更ながら理解した。
死体でもクリア条件に含まれるのなら、殺して回った方が手っ取り早いだろう。
「そうだよ、それが一番だな」
また、人を殺さないと。
露見すれば逮捕で刑務所行き確定。死刑もあり得る。
しかし、先に責められるべきは主催者達だ。むしろ、殺し合いを強要された身として情状酌量の余地がある。
後には退けない。
一人殺せばただの殺人だが、全員殺してしまえば英雄。
「ははは。いいぜ、やってやろーじゃねーか」
ならば、最も生き残る確率の高い方法を選択するまでだ。
ペットショップを出ると、通路を舐め回すよう目角を立てる。金属バットと同調して光る瞳は、獲物を探す野獣のそれだ。
視界に入り次第、片っ端からあの世へ送る。それ以外しなくていいし、考えなくてもいい。
殺せば殺すほど、自分が生き残る確率が上がるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます