第14話


「も、もう一度、全員で探索しましょう!」


 悪い流れを断ち切ろうと、安路は慌てて提案する。


「笛御さんは事故、不幸な事故でお亡くなりになっただけです! 満茂さんは悪くない、だからきっと……そう、えてカウントしてくれたんですよ!」


 デスゲームのクリア条件、“六名の罪を悔い改めし者”が椅子に座ること。それが死体でも可能となれば殺し合い待ったなし。そのため、カウントされた理由は、不慮の事故後もゲームを続行させるため、と考える方が平和的だ。自分達を監視している主催者達が特別に計らってくれた。そう読み解くしかない。


「ですから、短気を起こしたら駄目です。笛御さんのは事故だから特例で、本来は死体を座らせちゃいけないんだ」


 “悔い改め”ることが条件で、亡骸なきがらをカウントしてはルール違反。ゲームマスターたる主催者側がそれを許すはずがない。謎を解くよりも、裏技を見つけて脱出するよりも、殺す方が楽だから。と、他人を犠牲に勝ち残ろうとしてはいけないのだ。


「さっきも言いましたけど、武器を隠しているのが怪しいんですよ。殺し合いならもっと他のやり方をするはず。謎解き要素を散りばめる手間なんてしない。だから武器は罠、仲間割れさせるための揺さぶりなんです。正解か間違いか、その選択を見ている。主催者側の立場で考えてみてください!」


 デスゲームの攻略法といえば、クリア条件を達成するか主催者を打破するかの二択。そして殆どの場合、後者を望む主催者はいない。遠隔操作で爆破出来る首輪をつけたり密室を毒ガスで満たしたり、ゲーム進行に不利益な者は排除するのが鉄則だ。

 しかし、主催者の介入が多いとゲームは面白くない。可能な限り参加者だけで回してもらいたい。故に、人心を揺さぶる仕掛けを張り、間接的に望む流れへと誘導する。

 それが隠し武器の意義であり、殺し合いという破滅の道への分岐点なのだ。


「満茂さんも、皆さんも冷静になりましょう。謎を解くため、ここから抜け出すため、最後まで諦めず手掛かりを探すんですよ!」


 とにかく、殺し合いだけは阻止しなくては。

 その一心で、他の事柄に目を向けてもらおうとしたのだが、


「確かに、探せば武器も見つかるかも、だからな」


 守の返答は――最悪。

 事故とはいえ人を殺めたせいか捨てばちになっている。金属バットがいつ振り上げられてもおかしくない。


「はっ、冗談だよ」


 守は鼻で笑う。

 口ではそう言うも、こちらは不安ばかりが残る。水槽の底に溜まるおりのように、不穏なうねりが渦巻いている気がしてならない。

 そんな安路を一瞥いちべつし、守は金属バットを肩にかけてきびすを返す。大股歩きで差し込む光の先へと行く。


「ど、どこに――」

「てめーが言ったンだろーが。手掛かりってのを探しに行くんだよ」


 去り際にそう答えるが、語気には当初の勢いがなく、足元から伸びる影が尾を引くだけだった。

 彼に続き明日香と玲美亜、そして春明も立ち去ってしまう。三人とも無言だ。お互い監視し合うように、視線を交錯させながら光の中へ消えていく。

 またもぽつんと残される安路と恵流。数時間前との違いを挙げるとすれば、物言わぬ肉塊と化した織兵衛が座していることだけ。

 事態は間違いなく、悪い方へと転がり始めていた。

 やっとデスゲームの目的が掴めそうかと糸口が見えたのに、事故を機にあっという間に空中分解だ。しかも、一触即発の燃料がたんと溜まっている。


「ああ、もう。なんでこうなるんだっ」


 もどかしくて頭をむしってしまう。

 彼らを纏め上げる技量があったなら、いさかいを止められる強さがあったなら。織兵衛は死なずに済んだだろうし、全員の気持ちが散り散りにならずに済んだはずなのに。

 デスゲームに巻き込まれて、ようやく自分にも出来ることがあると意気込んだのに。生きてきた甲斐かいがない、無駄な人生だ。きっと、これこそ自分の背負う罪なのだろう。いっそ消えてしまいたくなる。


「安路はよくやっている。この私が認めてあげるわ」


 恵流の指先がそっと手の甲に触れてくる。白く細長いそれは、安路の骨と皮だけの手に折り重なり、きめ細かい肌を寄り添わせた。


「自分を責めないで」

「でも……」

「ネガティブが一番の敵。“諦めず”にって、安路が言ったんでしょう。なら、その聡明な頭脳を活かしなさい」


 真っ直ぐ意志を貫き通す、澄み切った瞳。

 死を目の当たりにして、彼女だって動揺しているはずなのに。

 年下なのに、なんと頼もしいのだろう。一抹いちまつ不甲斐ふがいなさを抱いてしまうも、安路の心は幾分軽くなる。


「そう、だよね」


 失敗続きだ。しかし、腐っている場合じゃない。

 こんな自分を慰め励まし、奮起させてくれる少女がいるのだ。彼女のためにも、この地獄から救い出さなくては。

 それこそが、今一番求められていることじゃないか。

 安路は両頬を叩いて気合いを入れる。


「まだまだ、これからだ」


 最後の瞬間、どんな袋小路ふくろこうじになろうとも手を尽くす、足掻あがき続ける、絶対に諦めない。

 安路と恵流は改めてショッピングモールへと繰り出す。

 今度こそ脱出の手掛かりを見つけてみせる、そう誓って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る