第34話 ロドヴィコとの出会い その一
或る日、ストゥディオーロの窓から、聖ジョルジョ橋を二人の少年が馬を駆ってやって来るのが見えた。よく見ると、弟のアルフォンソとフェランテだった。驚きと懐かしさでイザベラは階下に駈け下りた。ちょうど二人はお城の正面玄関で馬から降りたところであった。
「アルフォンソ! フェランテ!」
イザベラは我を忘れて駈けだした。二人は気がついて駈け寄って来た。
「お姉様、お久しゅうございます。」
イザベラは目頭を押さえた。
「ちょっと見ないうちに随分大きくなったわね。 みんな元気?」
アルフォンソとフェランテは顔を見合わせた。
「実は、お母様が御病気なんです。」
「えっ。」
「お母様はお姉様が行ってしまわれてから毎日泣き暮らしていらっしゃいました。
そして、とうとう御病気に。」
「お姉様、どうか一度フェラーラにお帰り下さい。」
イザベラは胸がいっぱいになって今すぐ飛んで行きたかったが、はやる気持ちを抑え、その事をフランチェスコに話しに行った。フランチェスコは驚いて、すぐにフェラーラに行くよう勧めてくれた。
イザベラは弟たちと船に乗り、ポー川を下って行った。
「お母様、今行きます。」
イザベラは心の中で繰り返し母に呼びかけた。
船は夕方フェラーラに着いた。船着き場には馬車が迎えに来ていた。
「お母様・・・」
お城の正面玄関に駈け込んだイザベラは思わず立ち尽くした。母はガウンを羽織って、長持を運ぶ侍女たちに指示を与えているのだ。
「イザベラ・・・」
「お母様、御病気じゃなかったのですか?」
「だいぶ良くなったのでね、ベアトリーチェとロドヴィコ様の結婚式が間近だから、とても寝ている気がしなくて。」
イザベラはうつむいた。張りつめていた心が、空気が抜ける様にしぼんでいった。
次の日からイザベラまで駆り出されてミラノの大使の相手をしたり忙しく立ち働くこととなった。アルフォンソとフェランテは不満そうに口をとがらせ、イザベラの手前ばつが悪そうだった。
イザベラは或る夜フランチェスコに手紙を書いた。
「親愛なる殿、今日までお便り致しませんでしたのは、決して殿のことを忘れていたからではございません。ミラノの大使がいらっしゃって、時間が無かったのです。今やっと私はお手紙を書くことが出来る様になりました。
殿、私は気がつきました。殿から遠く離れて私は何の喜びも味わうことが出来ないということに。 殿は私にとって、自分自身よりも大切な御方です。」
数日後、フランチェスコから返事が届いた。
「貴女は、私から離れては幸せになれないとおっしゃいましたが、全く道理な事です。
それは私たちがお互いに抱いている深い愛に気づかれたからだと信じています。
もう御両親も満足されたことでしょうから、今度は私たち二人の幸せのために一日も早く帰って来て下さい。貴女の帰りを首を長くして待っています。」
つづく
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