第23話 藤波黒羽は「トラウマ」を吠える

「いやーー助かるよ藤波、私一人じゃ流石にしんどいからさ」


「おッ重い……なんで俺がこんなことを…ッ‼」


「そんなこと言うな、終わったらお礼にジュースでも買うから」


放課後、いつもなら速攻で帰宅する俺は、担任である朱山先生の手伝いとして荷物運びをさせられていた。


巨大な段ボールを両手で抱えているため疲労が半端なかった。

しかし隣を歩き、その赤い髪をなびかせる先生の腕にはその倍の量が抱えられている。


「せ、先生よくそんなに持てますね……ッ⁉」


「んー?あぁ…まぁこんな雑務ざらにある職業だしな……というか藤波はちょっと体力無さすぎるぞ?若いんだからもっと運動しなさい。陸上部入れ」


「……青川先生はもっと華奢な女性の方が好きかも」


「なッ⁉ななななんでそこで青川先生のななな名前が出てくるんだだだだだッッ‼」

「あーごめんなさい冗談です」


勧誘回避の為にちょっとからかうだけのつもりで言ったのだが……人の恋心を安易にいじってはいけないらしい。


「てかこの段ボール何入ってるんですか……?重すぎるんですけど」


「教材やら色々だな。藤波のそれには確か……あ、「体育祭」で使う器具が入ってるよ……ってなんで膝から崩れ落ちてるんだッッ⁉」


「体育祭」……この禁忌の単語が耳に入ってきた瞬間、俺の体は無意識に拒絶反応を起こし、その膝を母なる大地へと還していた。


「……先生…体育祭って今年もあるんですか…ッ⁉」

「いや基本的に体育祭は毎年あるだろ……ど、どうした?嫌なのか?」


「あんなイベント…ただの陰キャ大公開処刑じゃないですか……ッ‼普通の体育の授業だけでも憂鬱なのに何でそれをさらに盛り上げて一日中やらなきゃイケないのッ⁉自由参加にして欲しいッッ‼」


「こ、こら廊下で大声を出すんじゃないッ‼……そうか、そんなに嫌か……ま、まぁでもあれだ!教師の立場でこんなこと言うのもあれだが、体育祭の日は通常授業もないぞ⁉しかも翌日は休みだし!これは嬉しいだろう⁉」


「………通常授業も自由参加がいいです」

「甘ったれんじゃない……ほら、あと少しだから頑張れ」


先生はため息交じりにそう言うと、俺の体を片手で引きずった。



夏休み前二大鬼門の一つ……「体育祭」が、徐々に近づいていた――…。

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