第19話 蔭島暗理は「席替え」に燃える

「黒羽さん、今日は何時ごろ帰られますか?」


「うーーん…特に予定もないし、すぐに帰れると思うよ」


「…い、陰キャだからですか……?」

「関係ないわッ!やめてその目ッッ‼…もう行くからね?」


「ふふっ……はい、お気をつけて!」


多くの出来事があったGWも終了し、今日から再び学校生活が始まる。


たかだか一週間程度の短い休みではあったが……、通学に利用しているこの路地も、どこか懐かしいモノのように感じた。


人生初彼女ウリエルに見送られてから数分後、俺は我が学び舎に辿り着き、自分のクラスへと足を運んだ。


教室内には既にクラスメイトが何人か登校し、雑談に花を咲かせていた。そしてその中には……、


「あ、黒羽おはよーーっ‼……ちょっと蒼司それ私のジュースなんだけどッ!」


「おー、おはよい黒羽……あんま美味くねぇなこれ」

「じゃあなんで全部飲むんだよこの野郎ッッ‼‼」


俺の親友バカップル、小日向矢夏と桜馬蒼司の二人もちゃんと居た。


朝からとっても仲良しだ。


「おはよう二人とも……あれ、蔭島はまだ来てないの?」


「いや、もう来てるよ?……今私の机の下にいる」


「………おはよう」


「だから何でお前はいっつもそこにいるんだよ、早く出ろッッ‼」


机の下でゲームをしている蔭島暗理を引っ張り出した。


いつも通りのメンバーが揃ったところで、ホームルーム前のチャイムが学校中に鳴り響く。そしてそれと同時に……、



「はい、お前ら席付けよーーッ」



我らが担任、朱山花も教室の扉を開け入室してきた。


寝不足なのか、若干目の下が黒いような気がする。


担任が入ってきたことにより、俺たち含めた生徒全員、各々の席へ戻りホームルーム…いや、GW明け最初の学校生活がスタートした――…。


        ☆☆☆


《昼休み・屋上》


「いやーやっぱ晴れた日の屋上はいいなぁ黒羽?」


「まぁ確かに……ご飯がいつもより美味しいかも知れない」


「……矢夏…サラダちょっと食べて」


「また~ッ⁉ちゃんと食べなきゃダメだよもう……」


午前の授業を終えた俺たちは昼休みに突入し、屋上で昼食を取っていた。


「そういえば今日放課後があるんじゃねぇか?」


「あれ?あれって何のこ…」



「…………席替えッッ‼‼」



「うわびっくりしたッ⁉ど、どうした蔭島大きな声出して……」


「暗理って大声出せたんだ……」


『席替え』…学生であればこの単語に胸躍らせない奴はいないであろうこのイベント。


仲のいい友人と近い席になれるかどうか、好きな人と隣になれるかどうか、など学生時代を送るうえで避けては通れないこのドキドキを最大限に楽しむことが出来るのがこの『席替え』というイベントである。



しかし俺と小日向はそんな席替えがあることよりも、あの物静かな蔭島が大声を出したことに衝撃を受けていた。


心なしか目の前の蔭島の瞳の奥に、燃え上がる炎が映し出されている、気がする……


「……やっとッ…今の席からおさらば出来る…ッ‼」


「おぉ燃えてんな暗理……てか今どこの席だったっけお前?」


「………教卓の真ん前…あそこ寝れない……ッ‼」


「「「あぁ……」」」


現在の蔭島の席は、席替えで当たれば誰しもが絶望する大ハズレの席だった。


それならいくら蔭島でもやる気が湧くのは当ぜ……ん?


「いや、蔭島いつも普通に寝てるよね?どの授業でも…」


「………花先生の授業は寝れない……寝てたらいつも…してくる…」


「いやまず授業中は寝ちゃ駄目だろ」

「暗理くすぐり弱いもんね」


珍しくまともにツッコむ桜馬と、蔭島の頭を優しく撫でる小日向。


しかし蔭島はそんな小日向の方をキッと睨みつける。


「……あと矢夏の近くもやだ」


「え、本人の前でそういうこと言う普通ッ⁉なんでよ暗理~~…」


蔭島からの予想外の発言に涙目になった小日向は、勢いよく蔭島の頭を撫でまわす。


「……だって矢夏絶対起こしてくるじゃん…ッ‼」


「そりゃ授業中友達寝てたら起こすでしょッ‼」


「……起こしてくる人のせいで全然睡眠時間取れないの…ッ‼」


「家で寝なさいよ夜中ずっとゲームしてるからそうなるんでしょッ⁉」


「待って待って二人とも喧嘩はやめようッ‼あと蔭島、これ以上言い争っても多分お前が不利になるだけだッッ‼」


「黒羽の言う通りだぞお前らーー」


「喧嘩じゃないもんッ!」


「……一人残らず蹴落としてやる……ッ‼」

「席替えの話だよね?」


俺たち四人の会話を中断するかのように、昼休み終了五分前のチャイムが鳴り響いた――…。


        ☆☆☆


《放課後》


「よーし、じゃあ予定通り「席替え」するから、くじ引きたい奴から順番に並べよー」


帰りのホームルーム終了後、くじの入った箱を両腕で抱えた朱山先生が烈火の声を教室中に響かせる。


生徒たちはどの席になりたいかを話しながら順番に並んでいった。

それは勿論俺たちも同じで……、


「なぁ黒羽、お前席どこがいいよ?」


「え?うーーん、窓際の席だったら神だよね」


「あーー、やっぱ皆そうだよな」


「桜馬も?」


「俺は教卓がいいな」

「あるわけねぇだろ」


そんな会話を繰り広げていると、先にくじを引き終えた小日向と、その頭の上に乗っている蔭島が戻ってきた。


「お帰り二人とも……蔭島それどうやって乗ってんの?」


「矢夏、席どうだったよ?」


「私は良かったよ、暗理の後ろ!暗理は……、」



「………前と同じ席だった……」

「「「………どんまい」」」



それから暫くの間、涙目になっている蔭島の背中を全員でさすっていた――…。

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