第18話 黒き羽の切なる願い・後編

~あらすじ~

助けて。以上。


世紀末風のヤンキー様と衝突してしまった愚かな俺は、人気のない園内の裏路地に連行されていた。


「よし…とりあえず兄ちゃんさ?」


「…はい…」


「喧嘩売ってんだよな?」

「…売り切れてます…」


ヤンキー様はものすごい顔つきで睨みつけてきた。怖い。


「嘘つけやッおかげで首がイカれちまったじゃねぇかよォッ‼」

「ごめんなさいごめんなさいッあとぶつかったの肩だった気がッッ‼」


何故今日に限ってここまで悪運が続くのか……、胸ぐらを掴まれたまま脳裏に人生初彼女ウリエルの姿が浮かび上がり……いつの日か誓った言葉が響く。


――俺もウリエルの自慢の「彼氏」になれるよう頑張るから……――


……何が自慢の彼氏だ……足引っ張ってばかりで……


「歯折らせろクソガキッッ‼」

「ッッ!」


目の前の輩が振り上げた拳が顔面に届きそうになった次の瞬間……、



閃光跳弾クーレビリオッッ‼』



「あ?…グォッッ⁉」

「……え?」


見たこともない、壁から壁へと跳ね返り暴れる「光の球」が、輩の胴体に直撃し吹っ飛ばした。


その球が放たれた先を見つめる。そこには一人の少女が立っている。


白銀の長髪、それに相対するように黒く輝く大きな瞳、真っ白なワンピースに身を包み、見つめれば見つめるほど、どこか弱弱しく、何故か無性に抱きしめたくなってしまうような可憐な見た目を持つ彼女の小さなその背中には…………


  ――…二つの、巨大な翼が生やされていた…――


「………ウリエル?」

「貴方…ッ‼私の藤波黒羽「彼氏」に何をするんですかッッ‼」


        ☆☆☆


「ウリエル…なんでここに?」


間一髪のところで駆けつけてきたウリエルに問いかける。


「ベンチに残っていた黒羽さんの匂いを辿って来ました」

「犬かッ‼」

「今そんなツッコミいいです」

「あ、ごめん…」


淡々と俺のツッコミを切り捨てたウリエルは、明らかにいつもと様子が違っていた。


まるで普段は緩く解かれている無数の紐束が一気に締め付けられているような……、


一言で言い表すと…ブチギレていた。


「~~……ッッ‼てめぇ何すん…グホォッ⁉」


「それはこっちのセリフです…ッ‼『閃光跳弾クーレビリオッッ‼』」


ウリエルは起き上がった輩の顔面に向け「光の球」を思い切り叩きつけた。


「……あ…あぁ……ッッ‼」

「…………ッ‼」


とてつもない衝撃を受けたことにより男の顔面は…言葉では表現しきれないモノに変形していた。


「ウ、ウリエル…ッ‼」


「貴方は私の前で絶対にやってはいけないことをしました。なので…「死」を持って償わせる」


「ひ、ひぃぃッッ……‼」

「ちょ…ッ」


閃光跳弾クーレビリオ乱王レビィアター


「ダメダメやりすぎだよバカッッ‼‼」


さっきの「光の球」を複数召喚し、その全てを叩きつけようとしている。


このままだと本当にこの男を殺してしまう為、俺は必死にウリエルの背中にしがみついた。


「え、ちょ、ちょっと黒羽さん⁉なんで止めるんですか‼」

「いいからそれ撃つのやめろッッ‼今すぐ‼」


「うわぁぁぁぁぁぁぁバケモノだぁぁぁぁぁッッッ‼‼」


俺が食い止めた隙をみて、男はその場から逃げ去っていった。


「「………」」


俺とウリエルはしばらくその場で互いに無言を貫く。


「……ウリエル、少し話そうか…」

「……はい…あ、これコーラです…黒羽さんのぶん…」

「……ありがと…」


        ☆☆☆


俺とウリエルは先ほど別れたベンチに再び移動し、飲み物片手に向き合っていた。


「ウリエル…怪我は…ないね」


「はい、大丈夫です……あっ黒羽さんは⁉怪我してないですか⁉私のお紅茶も飲みますか⁉」


「だ、大丈夫大丈夫ッ‼その紅茶は自分で飲み…」


「私コーラのほうがいいです」

「じゃあ最初からそう言ってッ⁉……交換こね」


互いの飲み物を交換し、再び沈黙の時間が流れ込む。


しかし聞かなければいけないことはある。


さっきのは一体何だったのか……、今後のウリエルとの生活の為にもしっかりと理解する義務が、俺にはあるだろう。


「……ウリエル、単刀直入に聞くんだけどさ?……さっきのあれ、何?」


「…私たち「六光大天使」は、天界は支え守護する役目を与えられた六体の特別な天使なんです。先ほど使った力は「天災てんさい」と呼ばれる私たちの一族が代々受け継がれたモノ……私の「天災」は「閃光」……その名の通り無限に湧き上がる光エネルギーを凝縮し様々な攻撃を……」


「待って待って一旦待って。頭が追い付いてこない……て、天才がなんだって?」


「ごめんなさい分かりやすく説明しますね。要するに……「すげぇ力が下界こっちでも使えて私びっくり」ってことです。まぁ使うためには「元の姿」に戻る必要があるんですけどね。どうでしょう?」


「うーーーーん……、まぁまぁ…何となくは……」


久々の天界新情報大公開時代に多少困惑してはいるが……、実際見てしまった為納得せざるを得なかった。


六光大天使ウリエルたちには「大天使」としての特別な力(天災)が宿っている。


・大天使によって扱える「力」は違う(ウリエルの場合は「光」)。


・その「力」は下界でも使用可能(※「天使の姿である」という条件付き)。


・「攻撃」として使えば命に関わる。


大きくまとめるとこんな感じだろうか。


「ウリエル、話してくれてありがとう。でも……その力は今後下界では使わないって約束して欲しい」


「な…ッ⁉ど、どうしてですか⁉「天災」が使えればいつでも黒羽さんを守れ…」


「…ウリエル、例えどれだけ傷つけられたとしても、腹が立ったとしても、やり返しちゃいけないんだよ。それが「人間」ってもん」


「……?どうして…」


「うーーん……許せるほうがカッコいい、から?」


「……ゆ、許せるほうが…カッコいい…?」


ウリエルは複雑そうな表情を見せながら頭を悩ませている。


「天界」とは一体どれだけ治安の悪いところなのだろうか…。


「まぁとにかく…せっかく遊園地来たんだし、楽しもうやウリエルちゃん」


「賛成です黒羽ちゃんッッ‼…あ、でも……もうすぐ閉園時間ですね…」


「いやいや、まだ最後のお楽しみが残ってるよ」

「?」


指をくわえ首を傾げているウリエルの手を引き、俺は「奥の手」がある場所へと向かった――…。


        ☆☆☆


「こ、黒羽さん……ッ何ですかこの巨大な歯車は⁉」


「「観覧車」だね、もうすぐ閉園だし早く乗っちゃおう」


「カンランシャ⁉の、乗れるんですかあれ⁉」


ウリエルは目を輝かせながら観覧車の前でぴょんぴょん跳ねている。


ここの観覧車は夜の景色が奇麗だと大変人気な為抽選に当たらなければ乗れないのだが……奇跡的に夜の時間帯で当たったのだ。


閉園ギリギリということもあり、スムーズに乗ることが出来た。


「うわぁ高い……こ、黒羽さんこれ落ちませんよね⁉大丈夫ですよね⁉」


「あはは、大丈夫だよ………………多分」

「今「多分」って言いました⁉……わわっ、どんどん高くなっていきます…!」


初めて乗った観覧車にウリエルは若干の恐怖を感じつつも、その眼には輝きが溢れ出していた。かわいい。

そして最上位まで昇りつめた時――…、



「「おぉ……ッッ‼‼」」



俺たちの目の前には、これまでの人生で一度も見たことがないほど美しい「夜景」が広がっていた。


普段は鬱陶しくも感じる無数の高層ビルの光も、この暗闇を照らす至美な輝きへと変化していた。


「き、奇麗です……こんな景色、天界でも見たことありません……ッ‼」


今回の一件で、大天使ウリエルと付き合うことが一体……どれだけ大変なことかを再認識することになった。


「……ウリエル」


きっとこれからはもっと沢山の困難が降りかかる……かも知れない。


「はい?」


でもその時は……「今度」は必ず……、


「その……さっきは助けてくれてありがとう……嬉しかった」


「……~~ッ‼こ、黒羽さぁぁぁぁぁんッ‼‼」

「うおおおおおッ待って待ってこの中で飛びついてこないで危ないッッ‼」


「うへへ…っ♡」


――…俺がウリエルを守ってみせる…――


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