第17話 黒き羽の切なる願い・前編

「あーー疲れた……」

「お疲れさまでした黒羽さん、今お茶淹れますね……って、あ…お茶っ葉が……」


小日向による地獄のレッスンを終えた俺は人生初彼女ウリエルと共に帰還していた。時刻はもう二十二時を過ぎていた。


プリントたった三枚の課題でよくあそこまで時間をかけられたものだと、我ながら少し驚いている。


短いようで本当に短かったGWも明日で終わり…、課題を終わらせた俺は「ある提案」を、目の前でお茶の葉を盛大にぶちまけたウリエルに投げかける。


「ねぇウリエル、明日さ…遊園地行ってみない?」

「…………え?」


俺の提案を耳に入れた瞬間、ウリエルはその場に固まってしまった。


「……も、もう一度いいですか?黒羽さん、今…どこに行くって言いましたか…?」


「ゆ、遊園地だけど…ずっと行きたがってたでしょ?」


「いいんですか⁉ホントに連れてってくれるんですか⁉遊園地って人沢山いますけどホントにいいんですね⁉「めんどいからやっぱ無し」とか嫌ですよっ⁉」


「大丈夫だってばッどんだけ信頼無いの俺⁉とにかく!明日行こう!いいね?」


「いぃぃやったぁぁぁッッッ‼‼」

「夜中だから静かにしてッ!」


本当は家でゆっくりしたかったのが本音ではあるのだが……飛び上がって喜んでいるウリエルを見ているとそんな気は失せていくように感じた――…。まぁ…


「とりあえず掃除しようか」

「そうですね」


《翌日・「ディスティニーランド」場内》


「帰りたいッッッ‼‼‼」

「フラグ回収早すぎますよ黒羽さんッ‼こんなとこで四つん這いにならないでくださいッ‼」


約束通りウリエルと遊園地に訪れたのだが……予想以上の人混みに脳がショートし、自然と体が拒絶反応を起こしてしまった。


「まだ入場したばっかりじゃないですか!周りからすんごい変な目で見られてますよッ⁉ほんとに大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫…、遊園地ここに来ると決意した時点でもう何もかも捨ててきたから…」

「そこまでの覚悟で訪れる場所じゃないと思いますよ…?ほら、早く行きましょ?」


ウリエルに手を引っ張られながら、俺たちは様々なアトラクションへと向かっていった。


         ☆☆☆


《リアルシューティングゲーム》


「黒羽さん早くゾンビさん撃たないとゲームオーバーになっちゃいますって‼」

「ちょ、ちょっと待ってこの銃どうやって使うの…⁉」


――HP:0――

「「あ」」


――GAME OVER――


「ご、ごめんッッ」

「あははっ‼結構難しかったですね!」


         ☆☆☆


《音速ジェットコースター》


「キャーーッッ‼めっちゃ早いですね黒羽さーーん‼‼」

「…………」


「あ、あれ黒羽さん?え、気失ってませんッ⁉」


「…………………………」


「ちょっと⁉死んでるのか気失ってるのかどっちですかそれ⁉」


        ☆☆☆


《超迫力3Ⅾ映像》


「す、すごいですッホントに飛び出して見えます‼ねぇ黒羽さ…」


「………は、吐きそう……うっ…」

「ここでリバッちゃうのはアカンですよッッ一回出ましょう‼」


        ☆☆☆


――飲み物買ってくるので黒羽さんはここのベンチで休んでいてください‼――


ウリエルに言われるがままに休憩用のベンチへと移動した俺は、これまでの行動を振り返っていた。


「…………あれ………?」


俺……全然彼氏やってなくない…?


いや、そりゃ元の性格がインドアだから完璧にエスコート出来るなんて思っちゃいなかったけどさ……?


今のとこ彼氏っていうよりもテンション高い母親と軟弱な子供って感じなんだけど……


「………情けねぇ…」


しかしまだが残ってる。


もうすぐ日が沈みそうなのでこれで必ず名誉挽回してみせる…ッ‼

そう決意し、ウリエルのもとへ向かおうと歩き出した瞬間。


          【どんッ】


明らかに場違いな風格を漂わせているシンプルに怖い人にぶつかってしまった。


「いってぇな」

「あ、すみません…」

「おい待て兄ちゃん……ちょっとお話出来るとこ行こうや」

「…………はい」


人生終わったかも知れない。

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