第10話 大天使は「友達」を得る・後編

 ~あらすじ~

 クラスメイトと放課後わちゃわちゃ。以上。


「結構買ったねー」

「暗理、お前これホントにデカいコーラ二本も飲むのか?」

「……飲む」


「あんま散らかさないように頼むぞ三人とも…」


 放課後、なんやかんやあって我が家に集まることになった親友三人と共に近くのスーパーで買い物を済ませ、ゆっくりと目的地へ向かっていた。


誰かの家にお邪魔するときにする買い物は何故かいつもよりも多く菓子やジュースを買いたくなってしまうものだ。

案の定今回も全員その領域に踏み込んでしまい、店を出た頃には桜馬と俺の両手には山ほどチョコやらクッキーやらコーラやらが詰め込まれた袋が握られていた。


「今更だけど……なんか多すぎない?同じお菓子の箱三つくらい入ってるんだけど…食べきれなくない?」

「は?いやだってお前のもいるだろ?」


 俺の純粋な疑問を耳にした桜馬はまるで奇人を見るかのような目線を向け口を開いた。それに賛同するように小日向と蔭島も「うんうん」と首を下げる。


 ………あれ?


「ん?どうした呆けた顔して」

「なんか買い忘れた?」

「あぁ……いや、え?信じてくれてたの?」


「は?当たり前だろ、そりゃ最初は冗談だと思ってたけど…お前があそこまで必死に言ってんならホントなんだろうなぁって薄々気づいてたわ、なぁ?」


「うん、それに不健康が人の形を成したような黒羽があんな素敵なお弁当作れるとは思えないし…」


「………普段恋愛話を耳にも入れない怨霊黒羽が…女の子のことを口に出す時点で異常…」


「お前らぁぁぁッ……‼」


 なんかさりげなく過去一侮辱された気もしたが……その全てがどうでもよくなるくらい心の底では信頼してくれていた友人達の優しさに体中が満たされていった。

 思わず涙が溢れるほどに。


「はいはい泣くな泣くな、黒羽の家もうすぐだよな?」


「うわーー待ってなんか緊張してきた……どんな子だろ黒羽の彼女さん…」


「…………(上手く話せるかな)」


 背中をバシバシ叩いてくる桜馬と妙にソワソワしだした小日向と蔭島を連れながら俺の瞳に見慣れた小さなアパートが映し出されていった――……


《黒羽宅玄関前》


「あの…なんでみんなして俺の右腕掴んでるの?ドア開けられないんだけど…」


 先ほどまであんなに楽しみにしていた友人三人は現在、何故か全員体を震わせたまま俺の腕を掴み、離さないでいた。


「ま、まだ心の準備が出来てない……息子が恋人連れてくる日の父親ってこんな気持ちなんだな…」

「いつからお前の息子になった?」


「わかるよ蒼司……息子が恋人連れてくる日の母親ってこんな気持ちなんだね…」

「いつからお前の息子になったッッ‼あと今回に関してはそっちから会いに来てるからねッ⁉」


「…………(怖い怖い怖い怖い怖い知らない人怖い怖い怖い知らない人怖い怖い怖い怖い知らない人怖い怖い怖い怖い怖い知らない人怖い怖い怖い帰りたい)」

蔭島お前は何があった⁉……あぁもう開けるぞッ」


 掴んでいた三人の腕を無理やり引き剝がしドアノブに手を伸ばしたその時――‼


「黒羽さんおかえりなさ~い‼」


 人生初彼女ウリエルのほうから満面の笑みでドアを開け出迎えてくれた。


「た、ただいまウリエル……よく帰ってきたってわかったね?」


「黒羽さんの気配を感じましたっ!あの、私今「めんとすこーら」の動画見ながら下界の漫画読んでたんですけど……ってあれ?黒羽さん、後ろにいる人たちは……?」


 愛くるしい純白の両翼をばたつかせ、胸を張り語り始めたウリエルは俺の後ろにいる友人たちにその興味を移した。


「あぁえっとね、この人たちは俺の友だ……ん?」


 ウリエルに紹介しようと三人のいる方を振り向くと……全員固まっていた。


 俺ではなくウリエルをジッと見つめたまま小刻みにその体を震わせゆっくりとその口を開く。


「は、はね……?ん?頭のリングヤツなに?ん?」

「えっと…そういう趣味の人…なのかな?あはは…」

「…………(美人)‼」


「…………………………あ」


 三人がそうなるのも無理はない…いや、そうなって当然なのだ。何故なら俺の彼女、ウリエルには……


 ――…背中に巨大な翼が生やされている…――


 ウリエルと出会ってからまだ三日ほどしか経っていないが、俺の中でウリエルはもう完全に「人外の天使」ではなく「一人の女性」として認識していた。


今思えば普通の人間の姿に変身出来たウリエルとの初デートがその決定打となっていたのだ。


しかし、それはあくまで俺の中での話だ。


一般人が羽の生えた少女の姿なんか見たら混乱してしまうに決まっている。蔭島は何故か目を輝かせているが……案の定他の二人は瞳孔をグルグルにさせていた。


 仕方がない、


「とりあえず今日はお開きに…」

「「「説明しろ」」」


「……はい」


「…?お客さん…でしょうか?」


 何もわかってなさそうなウリエルがただ呆然と俺たちを見つめていた――…


        ☆☆☆


「…………ってことなんですけど、」

「「「……………」」」


「……(黒羽さんなんで震えてるんでしょう?)」


 ウリエルとの会遇後、俺たち計五人は我が家のちゃぶ台を囲むように座り込み事情聴取を行っている。


この三人に上手いこと誤魔化せる気が全くしなかった……というか嘘ついたら●されそうな雰囲気だったため正直に全てを打ち明けた。


祖父から受け継いだペンダントがきっかけでウリエルと出会ったこと、なんやかんやあって付き合うことになったこと、ウリエルがいったいどういう存在であるのか(本人の許可アリ)まで全てを話した。


俺の話を全て聞き入れた三人はしばらく無言を貫いていた。


「……あの、理解できないのは重々承知なんだけd…」

「ウリエルちゃん、一つ聞いてもいい?」

「は、はいッ‼」


 俺の言葉を遮り小日向はウリエルに対して言葉を投げかける。重々しい雰囲気と無言小日向の威圧感に初対面のウリエルも緊張をあらわにしていた。


「黒羽になんか嫌なこととかされてない?」

「…ん?小日向?」


「嫌なこと…ですか?」


「そう、例えば嫌がるウリエルちゃんの●●●ピー○○○ピーを無理やり××ピーして△△△△△△ピーーーしたり…」


「は、はい…?」


「なッ…⁉おい小日向ッお前ウリエルに変なこと吹き込んでんじゃ……

「あんたは黙ってなさいッぶん殴るよ⁉」

「すみませんでした」


 小日向の勢いと怒号に体をビクッと震わせ唖然としてしまうウリエル……、


しかしチラッと俺の姿に目線を移した瞬間意を決したようにその口を開いた。


「えっと…ッ小日向…さん?こ、黒羽さんに意地悪は全く、されてないです、その、確かにおかしな出会いかも知れませんが…デートに行った時も、しりとりした時も、とっても楽しかったんです、だから…ッ」


「ウリエル…」


「…………」

 小日向は無言でウリエルの眼を、ただひたすら見つめている。


「あぅ…えっと、その…だから…ッ、…ご、ごぐばざんのこと、いじめないでくだざいぃ……ッ」

「「⁉」」


 地獄の小日向圧迫面接に耐え切れなくなったウリエルはとうとう泣き出してしまった。まさかの事態に俺と小日向は目を見開き――‼


「えッ⁉ちょ、ちょっと待って泣かないで‼違うの違うの、私ほんとにただ心配で聞いただけで……ッ‼ご、ごめんねッ⁉ほ、ほら私全然怒ってないから‼黒羽さんいじめないから大丈夫だよ⁉よーしよし、」


「俺が悪かったよ‼ごめんねウリエル…ッ」

「ぐすっ…、ぐすっ…」


 とてつもない罪悪感に襲われた俺たちは咄嗟にウリエルを抱き寄せ泣き止むまであやし続けた――…。


 桜馬&蔭島((……これなんの時間?))


        ☆☆☆


「ウリエル冷たいお茶どうぞ…、落ち着いた?」


「ありがとうございます黒羽さん…はい、落ち着きました。ごめんなさい取り乱してしまって…」


 しばらく経ってようやく落ち着いたウリエルは頬を少し染めながらお茶をゆっくりとすすった。


 そして罪悪感が抜ききらずウリエルの背中にずっとしがみついている小日向がさらに暗い雰囲気を醸し出している。


「…ごめんねウリエルちゃぁん…」

「あ、あの小日向さん?私はもう大丈夫ですよ、ご心配本当にありがとうございます。よしよし、」

「うぅ…、ぐすっ…ママぁ……」


 ……さっきと完全に立場が逆転していた。ママって言っちゃってるし。


「えぇっと……結局わかってもらえたの…かな?俺とウリエルの事情…」


「うん、まぁ正直どれくらいのスケールの話か理解しきれてないけど…ウリエルちゃんの涙に心打たれたッもう信じるしかないッッッ‼…………………あーーいい匂いする…」


「小日向さん鼻息が熱いですよぉ……」


「通報してやろうか?……桜馬と蔭島はどう、かな?」


 俺と小日向とウリエルの惨劇についていけなくなった二人はずっと部屋の隅っこでトランプをしていた。


「んー?俺も別に疑わねぇよ…、というか黒羽に彼女が出来たんだからもう何でも信じられるわ(笑)」


「……私も…は信じる派…だから」


「……じゃあさぁッ――‼」


 全員が理解の意を示したのを見計らって小日向がその場から立ち上がり、ウリエルに自身の手を差し伸べ口を開く。


「ウリエルちゃん、私たちと「友達」になろうよ!せっかく下界こっちに来たんだもん、仲良くなりたい‼」

「と、友達……⁉」


「黒羽もいいよね?」

「ウリエルがいいなら俺は何も言わないけど…」


「黒羽さん……‼……小日向さん、よろしくお願いしますッ‼」

「やった!」


「……矢夏だけズルい…私も…」


「おっ!ウリエルちゃん、この子は蔭島暗理。私たちといつも一緒にいるんだ~」


「そうなんですね、よろしくお願いします蔭島さん!」

「………ムフ♡」


 三人は互いに笑顔で手を取り合っていた。


 その様子を遠目で見ながら桜馬が語り掛けてくる。


「……ほんと助かるよな、矢夏のああいうところ。、さ?」

「そうだな…」


 ――…この日、俺の人生初の彼女に初めての「友人」が出来た…――


「じゃあ記念にパーティーしよう‼お菓子とコーラ用意!」

「あ、私「めんとすこーら」やってみたいです‼」

「お、いいね。じゃあここでやろう」

「……メントス買っといて良かった」

「うへへ」


「「おいやめろ馬鹿どもッッ‼」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る