第8話 大天使は「しりとり」を知る

「黒羽さん、「しりとり」しませんか?」

「また急だなおい」


 人生初彼女ウリエルとの「初デート」の翌日、今日までは学校もバイトもなかったが数学の課題が終わっていないことを思い出したため朝食を食べた後から俺はずっと机に向かっていた。


これは別に勉強大好きだから、とかそういうわけではなく、ただ単に集中できずボーっとしていた時間が長くなってしまっただけだ。


「いいけど……なんでしりとり?」


「さっきテレビでやっているのを見ました。面白そうです」

「そっか…」


 時系列で見ればウリエルが下界に降りてからまだ二日しか経っていなかったが、俺が単に凄いのかウリエル自身の環境適応能力が異常に高いせいなのか、お互いすっかりこの同棲生活に慣れてしまっていた。


 その証拠としてウリエルはこの家のテレビや掃除機、アイロンや電子レンジの使い方までもうすっかり把握していた。


「うん、いいよ。やろうか」

「はいっ!じゃあ「しりとり」のやり方教えてください」

「おいおい」


 ……まぁちょっと抜けているところはあるのだが。


        ☆☆☆


「しりとりっていうのは下界にある「言葉遊び」だよ。お互いに最後の文字と頭文字が続く単語を言い合って、最後に「ん」がつく単語を言ったほうが負けっていうルールね。わかった?」


「はい、多分わかりました‼」

「ウリエルがそれ言うとき大体わかってないんだけどね」


まぁこういうのは口だけで説明するよりも実際やってみたほうが早いのかも知れない。


「とりあえずやってみようか?」

「はい!」

「よし…それじゃあ…、」


【しりとり大会一回戦目・スタート】


「じゃあ俺からいこうか。「しりとり」の「り」、」


「えっと、えっと……「り」だから…あっ「りんご」‼」


「お、そうそう出来てるよ。じゃあ……「ゴリラ」」


「「ごりら」ってなんですか?」


「あーーそっか、下界にいる動物のことだよ」


「そうなんですね、じゃあ…「ラー油」‼」


「おぉやるな……じゃあ「ラッパ」」


 これは……ウリエルが遊びながら下界のモノに触れる機会を増やせるため、思ったよりいいかも知れない。


最初は突然の思いつきに少し付き合うだけの予定だったが……今後もちょっとした時間にやってもいいな。


それからしばらくウリエルとのしりとり合戦は続いていった。


《十分後》


「じゃあ…「時計」」


「また「い」ですかっ⁉もうないですよォォ…」


「ちなみに制限時間十秒ね」

「初耳なんですけどッ⁉」


「十、九、八……」


「えぇ、待ってくださいよッ‼えっと…えっと…「イカ」はさっき言ったから…ッ⁉」


「……三、二、一、よぉし俺の勝ちーー‼………あっ」


 しまった、つい主催者ウリエルよりも盛り上がってしまった。

恐る恐る彼女の顔色を伺うと……なんともまぁお顔が膨れていた。


「黒羽さんちょっと大人げないですよっ‼」

「ご、ごめんウリエル……」


「もう、今度は「天界」の単語もアリにしてくださいよ。それと、別に疑ってる訳ではないですけど一応私が初耳の単語は、確認の為にその写真を見せてくださいっ‼」


「あぁ、わかったわかった。じゃあそれでやろう、俺も天界のこともっと知りたいし丁度いいや」


「言いましたねっ?次こそは負けませんよ~~?」

「はは、頑張れ~」


「ウリエルが満足するまで付き合ってあげよう」最初はただその程度にしか思っていなかった。

どうせあと二、三回ぐらいやれば満足する……その時は本当に、それぐらいの感覚だったのだ。


【しりとり大会二回戦目・スタート】


《八時間後》


「じゃあ……「ペルセポネの鋼毒」‼「く」ですよ黒羽s…」


「ねぇお願いだからもう許してッッッ‼」


 お昼頃に始めた「しりとり大会二回戦目」は長きにわたり続き……時刻はもう二十一時を過ぎていた。


天界の言葉を含めた時のウリエルは、それはもう無双していたのだ。


「ダメですよ黒羽さん?「く」から始まってないのでそれは無効です」


「いや続けてないのよ、降参してんのッッ‼逆に八時間もぶっ通しでしりとりし続けられた自分の語彙のレパートリーと精神力メンタルに我ながら敬服してるのよ今‼そしてさっきから無限に飛び出てくるその「ぺるせぽね」シリーズは何なのッ⁉」


「降参は受け付けません、私が勝つまでやりますッッ‼ほら「く」ですよ「く」‼なんなら一回言った単語全部リセットしてもいいですからッ‼」


「じゃあせめて何か食べさせてッ⁉飲食なしで八時間しりとりとかどこの国の拷問だよッッ⁉」


 結局このしりとり大合戦は夕食後も続き……最終的にウリエルが「ん」のつく単語を言ってしまったため決着がついた。


時刻は七時半、俺とウリエルの新たな一週間がこうして幕を開けたのであった。

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