第6話 大天使は「デート」を知る・前編
朝食後、俺と
今のこの状況を一言で言い表すなら……
「黒羽さーーーん……」
「んーーー……?」
「あのシミ…ミルクに似てません?」
「えぇ?どれ?」
「あれ、あれですよ…あれ…、どれでしたっけ…もういいや…」
「なんなんだよ…あのシミなんかウリエルに似てない?」
「えぇ?どれですか?」
「あれよ、あれ……あれ…、どれだっけ…もういいや…」
「なんなんですかぁ……」
「はは………」
「……………」
「……暇じゃない?」
「暇ですね」
暇だった。
今日は学校やバイトもないため本当にやることが無かった。こういうときって普通のカップルならどうするのだろう…?………聞いてみるか。
俺はスマホのメッセージアプリを開き、ある人物に相談することにした。
『いま大丈夫?風邪治った?』
『うん。どうした?』
『お前ら休日とかってどう過ごしてる?』
『え?セック…』
俺は瞬時にスクショを取りアプリを閉じた。……バカなのか?あいつ…
「どうしたんですか黒羽さん?…その黒い板なんですか?」
「あ、いやっ何でもないよ。これは「スマホ」だね」
「「すまほ」⁉なんか光ってます…‼」
初めて見る下界のハイテクアイテムに翼をばたつかせ目を輝かせているウリエルを横目に、俺はニヤけながらも頭を悩ませていた。
ほんとにどうしよう……このまま二人でずっと死体のように天井のシミを見続けるわけにはいかないだろうし…あれ、ミルクどこ行った……散歩か、うーーん……あっ、
一つ思い出した。俺がもし付き合えたときにやりたかったことを。
☆☆☆
「ウリエル、これから「デート」しない?」
「?「でーと」とは…なんでしょう?」
俺の提案にウリエルが首を傾げ疑問を投げかけてくる。
「うーーんと、付き合ってる人たちがいろんな所に遊びに行ったり……遊んだり…?」
これ以上どう説明すればいいのだろうか。
俺の回答を耳に入れ、ウリエルは俯き自身の顎に手を当て、なにやら考えるそぶりを見せたあとその顔を上げ口を開く。
「黒羽さん、私食べてみたいものがあるんですけど」
「ん?何食べたいの?」
「「くれーぷ」ってやつですっ‼昨日動画で見たんですけど、一目見たときから何故か無性に食べたくなってしまって……‼」
「おお、いいね。そういうのだよウリエル」
「うへへ」
確か渋谷のほうに美味しいところがあるって聞いたな……あっでも……
「ウリエル……
流石に渋谷の道中で翼生やして歩いてる女の子がいたら大注目を浴びることになるだろう。そうなればとてもデートどころではなくなってしまう。
「はい?…あぁ翼ですか?これなら背中に埋められるので大丈夫だと思いますっ!」
「そっか、背中に埋められるのか。じゃあ問題ないかな……って、え?」
「え?」
「埋められるの…?それ…」
「はい、できますよ?あ、なんならもう今やっちゃいましょうか」
「え」
ウリエルはそう言うと俺の傍にいた位置から少し離れると、上体を斜め下に向け、背中に力を入れる様子を見せたその瞬間、二つの翼がゆっくりと彼女の背中に沈み始めた。
「……ん…あっ、あぁ…いやっ…んっ、あっ、んっ、あぁっ…‼」
「うんごめんちょっとストップ」
「…えっ⁉な、なんですか黒羽さん⁉途中で止めないでください、疲れるんですよこれッッ‼」
「え…ご、ごめん……いやその、もうちょっと声抑えられない…?」
「無茶言わないでくださいッ‼……はぁっ、はぁっ…」
激しく息切れしているその様子から相当しんどい行為であることが伺える。
……我慢するか、
「そ、そんなに無理しなくてもいいよ…?俺はたださっきの息切れにもし「♡」とか付いてたら結構危ない感じだったって言いたいだけであって……」
「何意味不明なこと言ってるんですか…?もう少しなので待っててくださいっ…んッ…あッ、いやっ♡…黒羽さんッ…♡ん、そんなっ…とこ…♡…ダメですぅぅ…♡♡」
「おいちょっと待て今のは演技だろッッ⁉」
なんやかんやありつつ、俺たちは初めての「デート」へ向かうことが出来た――…。
☆☆☆
《午前十一時・渋谷到着》
「こ、黒羽さんっ…なんですかこの人だかりは⁉今日は何かお祭りでもあるんでしょうか⁉」
スクランブル交差点、渋谷駅の北西部分に位置してあるこの交差点には毎日のように大量の人が行き来している。
下界…いや、日本の都会部分に暮らしている人々ならほとんどがその存在を知っている、あるいは見慣れているだろう。
しかしウリエルは天界から降りてきた大天使。普段人間一人すら見ないようなものからすると、この大量の人々が蔓延るこの光景はまさに異様と言えるのだ。
それはさておき……
――なぁ、あの白い髪の子めっちゃ可愛くね?
――何?なんかのアイドルかな?
――隣にずっといる
俺の隣にいるウリエルが周囲からものすごい注目を浴びていた。
背中の翼を完全に隠し、頭上のリングも取り外した彼女の今の姿はどこからどう見ても普通の人間の「形」をしていた。
注目を浴びているのはその「外見」。出かける前にある程度覚悟はしていたが……彼女のその尋常離れした見た目の美しさには男女関係なく、通り過ぎていく人々の目全てを釘づけにしていた。
……ジロジロ見んな俺の
「あ、あの黒羽さん?お顔がなんか怖いんですけど…ほら周りの人たち皆見てますよっ⁉」
「いやそれはどっちかっていうとウリエルを…いや…うん、ごめん行こっか」
「はいっ!……あっ忘れてた」
「……?なっ⁉ちょっ、ウリエル何して……ッ⁉」
彼女はそう言うと自身の左手を俺の右手にそっと近づけ……そのままゆっくりと、互いの指が交互になるように、その小さく柔らかい手を絡めてきた……
そう、「恋人つなぎ」をしてきたのだ。
「出かける前にお借りしたパソコンで調べたんですっ!「かっぷる」が「でーと」に行くときはこの手の繋ぎ方をするのがマナーだと勉強しました‼……嫌、ですか…?」
「嫌じゃない嫌じゃないッ‼むしろご褒美、これで行こうッッ‼」
「……‼はいっ!」
俺の反応がよほど嬉しかったのか、ウリエルは上機嫌で左手に繋がっている俺の右手をぶんぶんと振り始めた。
……当然周囲の視線はさらにこちらへと向けられるようになったが…そんなこと全てどうでもよく感じてしまうほど、俺も全力で彼女の左手を振っていた――…。
――…次回「初デート」編・後編突入…――
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