第3話 大天使は「猫」を知る

 ~あらすじ~

「シャブ」を摂取しました。以上ですっ。


「ふーー……、お腹一杯ですっ」


「ま、まさか二日分炊いた米全部食うとは……」


 これは月の食費のことをもう少し気にしなくてはならないな。まぁ考えてみればこれから二人…いや「二人と一匹」で生活していく訳だしこうなることは必然だったか……、

   いやそれにしても食い過ぎだけどなッ‼


 ホカホカな白米相方を失った虚しき空の炊飯器と見つめ合うこの時間は、自然と俺の口からため息をこぼれさせていた。


「黒羽さーん、ごちそうさまでしたーー‼何かお手伝いできる事ありますかーーー?」


 元凶ウリエルは膨れたその腹を両手でさすり、寝転がりながら問いかけてくる。


「じゃあ…食器洗うの手伝ってもらえる?やり方教えるから、あと…食べた後すぐに寝ると牛になるよ」


「了解っ、です……って…え⁉下界の人は食べたあと寝ると「ウシ」になっちゃうんですかッ⁉」


「あーーうんそうそう、下界こっちにいるとそうなるんだよ、だからウリエルももう時間の問題……」


「わーーーーッッッ‼‼嫌です嫌ですッ手伝いますからっ‼」


 俺の言葉を真に受けたウリエルは途端に顔を青ざめ体を起き上がらせた。

……出会ってからまだ数時間ほどしか経っていないが、何となくウリエルの扱い方がわかってきたかもしれない。


[ニャーーオ]

「あれ?黒羽さん、この生き物なんですか?きゃっ⁉あ、足舐めないでくださぁいぃぃ…」


 ウリエルは立ち上がったと同時に床で寝転がっている一匹の子猫に目線を下す。

俺が放課後に保護し、そのまま飼うことに決めた猫だ。

そして彼女に自身の存在を認識された猫は……彼女の足元に寄りその足を舐めていた。


「あぁ…ウリエルが下界に来る前に拾ったんだ。「猫」っていう生き物だよ」


「……え…?こ、これが…ネコ?」


「あれ?猫知ってるの?」


 俺にその名前を聞いた瞬間、彼女は目を見開き猫の体をゆっくりと持ち上げまじまじと見つめ始めた。そういえば…さっき「牛」のことを言った時もまるでその存在を知っているような反応を示していたな……


「は、はい…天界にも「ネコ」はいるので……でも、こんなにちっちゃくないですっかわいい‼」

[ンニャーー]


 ウリエルはすっかり下界の「猫」に惚れ込んだらしく、その体に自身の顔をこすりつけていた。

 ……………羨ましい…………


「…天界の猫ってどんな感じなの?」


「な、なんでほっぺた膨らませてるんですか?そうですねぇ……あっ紙とペンお借りしますね。ちょっとごめんねネコちゃん」

[ニャーオ]


 そういうと彼女は両手で抱えていた猫を床に下ろし、固定電話の横に設置していたメモ帳とペンを手に取り何かを書き始めた。

時々宙を見つめ思い出すようなそぶりを見せながら、そうして十分程経過した頃……


「できましたっ‼これが……天界の「ネコ」です‼」


「…うん……なに、これ?」


 彼女が誇らしげに突き付けてきたその絵には……


真っ黒な体とその顔にある大きな一つ目、耳の様なモノも生えてはいるが背中と思われし部位には変な翼も生やされている…


ハッキリ言って小学生の落書きのようにしか見えなかった。…………え、これが猫?


「ホントに、こんな…のが…いるん、ですか?」


「はいッ‼結構たくさんいます‼とっても強いので大天使私たちもすごく信頼しているんですっ」


「あ、そう…仲いいんならいいけどさ」


 一度「天界」とはどのような場所なのか詳しく聞かなくてはいけないかもな…、

よっぽど力作だったのか、さっき描いた絵を上機嫌で壁に貼り付けている彼女を見て心底そう思った。……あ、そういえば…


「お前の名前、どうしようっか」

[ンニャー]


「え、まだお名前考えてないんですか?」


「うん、まぁさっき拾ったし…それ以上にいろいろありすぎて完全に忘れてた。

ウリエル、なんかいい名前思いつかない?」


「すっごい無茶ぶりですね……、うーーん…あっ、

『アウストラ・ガーボ・リ・エクス・ハーグストロディメイント・マール・リ・ゼウス』なんてどうでしょうかっ⁉」


「なんて?」


 彼女は子猫を撫でまわしながら必死に考える様子を見せ、口を開いた瞬間に何かの呪文かと思わせるような名前を吐き出した。


「ゼウス様…あっ天界のトップにいる神様なんですけど、そのお方の名前を丸ごと取りました‼どうでしょう…?」


「うーーん流石に長すぎる、かなぁ…?あと、人…というか神様のお名前勝手に使ったら、どんな天罰下るか分からないから却下で。ごめんね」


「そんなことでお怒りになる方じゃないですけどーー、まぁ確かに普段呼ぶにしては少々長いかもしれませんね。ではどうしましょう…うーーん、」


 彼女は再び顎に手を当て考え始める。なんかいい名前…いい名前…

          いい…名前……、


「……………………ミルク」


「はい?」


「あぁいや、こいつすっごい牛乳飲んでたからさ…体毛白いし、どうかな…?」


「「ぎゅうにゅう」……というのが何かは分かりませんが、いいと思いますよ。

呼びやすいし、かわいいと思いますっ!ねーミルクー?」

[ンニャーーーオッ]


「あははっ、手ぇ舐めないでくださいよぉ」


「気に入ったのか…、よろしく『ミルク』」

[ウニャーーーオッッ]


「あイタっ⁉な、なんで俺には噛みつくんだよ⁉」


「あはははっ‼」


 ――……まぁ随分と…賑やかな猫と彼女ができたものだ……――

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