第78話 見えない月とビーフシチューと。

「あ、今晩も曇り。もうすぐ新月、ますます影になるんだ……」


 ニュースを流しながら晩ご飯を食べていたら、天気予報が聞こえてきた。

 満ちた月が欠けながらまた満ちていくまでには日数がかかる。満月はまだ先。


「お母さん、もしかして、あの月球儀にお月様を見せてあげたいの?」


 ……当たり。

 そう、みさきさんに頂いたお誕生日の月球儀。

 何となく、本物の月と向かい合わせにしてみたくて。


「実は、そうなの。でも、月末までは無理かもね。……シチューの味、どう? パンはとても素敵なのを選んでくれたけど」

「完璧! 明日はこれにブロッコリー乗せたいな」

「あるわよ、新鮮なのが。由都が帰ってくるまでにゆでておくわね」

「ありがとう!」


 今日の夕ご飯は、由都がパン屋さんに寄ってきてくれたお陰で、おいしいパンとビーフシチューになった。

 野菜も新鮮なものを豊富に購入できたから、明日シチューにブロッコリーをのせるのは私も楽しみだ。


 シチューは、私が作るとビーフシチュー、京さんが作るとホワイトシチューになることが多い。

 お互い、それぞれの味の方が好みなのだ。


「ベーコンエッグトーストと食べるのも最高!」

 由都が買ってきてくれた、目玉焼きが乗ったトースト。黄色くてぷっくりとしていて、お月様を思い出させる。現実の色とは違うけれど。


「あ、そうだ。みさきさんのお母さんからメッセージきててね。みさきさんに連絡したら、みさきさんがお話するって。……で、今みさきさん、実家だって。お話、うまくいったみたい。やっぱり、お母さんのこと、お母さんもすっごく素敵な人、って分かってくれてた感じで。だからみさきさん、お母さんとのこと益々頑張る、ってお母さんに約束したんだって。二、三日ご実家で過ごすから、クリスマスイブは絶対先達庵さんに行けるよ、嬉しい! だって」


 ……え。


「あの、由都。お母さん、お母さんとみさきさんのお母様のどちらなのかが良く分からなくて。」

「あ、ごめん。私に連絡くれたのと、実家でみさきさんとお話をしてたのがみさきさんのお母さん。あ、ひらきさん、で良い? ご本人はむしろこう呼んで、ってご実家に伺った時、私に言われてたから」

「……まあ、今はそれで良いわ」

「うん、で、ひらきさん、みさきさんが好きな人がお母さんって知ってて。でも、お母さんは私とみさきさんがそういう意味で仲良しなんだと思ってたの、ご存じだったんだって」


 ……土岐ひらきさん、通話の時の画像でしか存じ上げないけれど、みさきさんと本当に似ていらっしゃった。


「ええと、由都ちゃん、お夕飯を食べてから聞きたいのだけれど、良い?」

「あ、そうだよね、ごめん。私もあと二回はおかわりするし、お母さんのシチュー」


 由都の様子だと、私……との交際前提? の友人関係でお母様から何か、とかではなさそうね。


 とりあえず、見えないお月様に、『みさきさんをよろしくお願いします』とお願いしておこうかしら。


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