第79話 見えなかった月と見えたものと。

「ごちそう様。あ、お母さんの分も食洗機に入れてくるね」

「ありがとう」


 由都は本当に二回のお代わりをした。たくさん食べてもらえて嬉しい。明日は残ったビーフシチューとブロッコリーと、あとはオムライスにしようかな。


 あ、そうそう。由都が動いてくれている間に、テーブルを拭こう。

 それから、お茶も入れて。


「……ええと、お母さん、先に言っておくけど、大丈夫だからね。はい、これ。みさきさんのお母さん、ひらきさんから。多分これで安心安全」


 そう言いながら由都が見せてくれたのは、メールの受信欄。


『伊勢原しずる様、こんばんは。以前、電話ではお話をさせてモニタ越しにご挨拶をさせて頂きました土岐ひらきでございます。娘、みさきがご迷惑をお掛けしましたこと、保護者としてお詫び申し上げます。よろしければこれからも長い目で娘をご覧頂けましたら幸いに存じます。もしよろしければ由都さんを通じまして、ご連絡先を交換させて下さいね』


 ……手紙みたいに丁寧なメール。


「と、いうわけ。ひらきさん、みさきさんの好きな人がお母さんだってこと、知ってたんだよ。ずっと前から。で、お父さん、私のお父さんね。……と、やり取りしてて。みさきさんと私が、みさきさんとお母さんって良い感じだよ、いけるよ! みたいにしてたのも何となく知ってて。……で、今、色々あった状況報告で、みさきさんはご実家」

 ……なるほど? とりあえず、すごくご丁寧ね。ご連絡がメールで良いのは私がありがたいわ。もしかしたら、そうして下さったのかも。


「……で、続き。指輪の件は、私もお母さんに謝らないと。みさきさんに、『アクセサリー、指輪って、差し上げたらダメだよね?いくら告白、上手くいきそうでも……』ってみさきさんから相談されてたのに、いけるよ!って言っちゃった上にお母さんの指輪のサイズ、伝えちゃったし。未来の娘、も。私がいつかは、だね! ってみさきさんに言ってたから」


 ……あ、そういうこと。

「だから、スマホで実況中継してたのね、由都ちゃん。……そう、そうだったの……。確かにあの頃の私、あなたとみさきさんと良い感じだったのが嬉しくて、あの日はついに『お母さん、私、先生……土岐みさきさんとお付き合いをしたいの!』って言ってくれるの? って期待してたわ……」


「あ、だからお母さんいつもより目がきらきらしてかわいかったんだ。いや、いつもかわいいけどね。……プロポーズが撃沈して少しへこんでた筈なのに、みさきさん、『でもやっぱり、かわいらしい……好きです!』って感じだったもん」


 ……それは、ええと。

 とにかく、色々納得。


 特に、あの日のことが。


「……ま、まあ、その話は置いておいて。ありがとう、由都ちゃん。その、みさきさんのお母様からのメール、転送してくれる? あとでご連絡差し上げたいから。あと、明日のお夕飯はリクエストのブロッコリーのせビーフシチューとオムライスで良いかしら?」


「良い! 嬉しい!……あ、あれが良い!お月様みたいなまん丸オムライス!」

「了解しました。……あ」

「どうしたの?」


「……お月様、明日はここにもいてくれるのね、って」

「そっかあ、そうだね」


 ……そう、明日はオムライスのお月様。


 そして、今日はきっと、みさきさんのことも、みさきさんのお母様のことも、見えないお月様が照らしてくれていると思う。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る