第52話 ギャルソンタイプのエプロンと。

「……しず、申し訳ないのだけれど、これ、借りても良いかな。ダメなら言ってね。僕のを使うよ」

 ちょっと遠慮がちに京さんが訊いてきたのは、私が二人からもらったコーヒー色のギャルソンタイプのエプロンのこと。


 ……もしかして、京さんも気に入ったのかしら?


「どうぞどうぞ!」

 割烹着は先達庵さんのお手伝いとかで親しみがあるからさすがの京さんでもちょっとだけ迷ってしまったかもしれないけれど、エプロンなら。

 むしろ、京さんのギャルソンタイプのエプロン姿はちょっと、いいえ、かなり……見てみたいかも。


 ……もちろん、私もエプロン自体はスタイリッシュですごく気に入ってる。何しろ、二人からのお誕生日のプレゼントですもの!


「ありがとう。……皆、もうバーナーは大丈夫かな?」

 京さんが二人に訊くと、「うん、おいしかった!」「ありがとうございます。香ばしさと食感が素敵でした」という対照的な感想が返ってきた。

 何個か残っているチーズケーキはまだ冷蔵庫に入れなくても良さそうね。


「じゃあ、次だね。土岐さん、手伝ってくれる?」

 エプロンとバーナーをそれぞれの手に持って、みさきさんを台所に誘う京さん。

「あ、私もオレンジジュース!」 

「そうだったわね、由都ちゃん。行ってらっしゃい」


「チーズケーキ、味もそうだけれど、雰囲気があって更においしかった……。ありがとうの気持ちを込めてお片付けを……するところがないわね」


 三人を見送って、少しだけお片付けを……と思ったけど、片付けるところがないくらいに綺麗。

 チーズケーキはまだここで大丈夫そうだし。

 ポットとカップも、みさきさんが持っていってくれたのね。

 ……あ、私の分だけ新しいのを入れてくれているわ。


「……良い香り」


「ありがとうございます、新しい茶葉もご用意いたしましたので、すぐにお持ちいたします。それから、こちら、新しいケーキでございます」


 京さんかしら?


 その声にふと見上げると。


 あのコーヒー色のギャルソンタイプのエプロンを付けた京さん……じゃなくて。


 すっきりとしたブルーのヘアライン・ストライプのシャツとカーキ色のチノパンの上にコーヒー色のギャルソンタイプのエプロンを付けたみさきさんが、何故か、めったに購入できない、でも、私の大好きなお店のケーキをケーキナイフと一緒に運んできてくれていた。


 ……格好いい。嬉しい。おいしそう。


 ……でも……何故?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る