第53話 もう一つのケーキと。
「どうぞ。チーズタルトでございます。何ピースお切りいたしましょうか」
……目の前にはギャルソンタイプのエプロン姿のきりりとしたみさきさん。
お盆の上にはチーズタルトとケーキナイフ。
それは、私がとても好きなケーキで、中には白玉と黒蜜のゼリーが入っていて、断面からはほうじ茶が香るチーズタルト。
しかも、ほうじ茶は別々の農園のものをブレンドしていて、普通のほうじ茶の香りよりも更に香ばしい、
「……もしかして、これがみさきさんからのプレゼント? でも、買うのがたいへんだったでしょう?」
冷凍品の予約販売はほぼ一瞬で完売。
そもそも私がこのケーキを私が食べられたのも、みさきさんの母校、京さんの職場の女子高校の法人理事長でいらっしゃるお祖母様からの頂き物というご縁なのだ。
由都と、たまに京さんも加わった三人で、何度か食べたこのチーズタルト。めったに出会えない、大好きなケーキ。
嬉しいけど、みさきさん、並ぶとか色々してくれたんじゃないかしら。
「いえ、プレゼントは別のものです。それは、お約束しました椿の英語の花言葉と一緒にあとでお渡しをしますね。……チーズタルトですが、今日、電話で誰よりも早くしずるさんにおめでとうございます、と言えた嬉しさで思わずケーキ店に開店時に電話をしてしまいまして……。そうしたら、店舗に来られるなら突然キャンセルになったものを売って頂けると言われまして、それで」
返事は、私の想像以上に忙しく、そしてたいへんな内容だった。
「……お店に行ったの? あのお店、この辺からだと新幹線を使わないといけないわよ?私が頂いたのはデパートの催事の時に出店されるもので……。え、そんな、たいへんだったでしょう? 何故?」
何でそこまで!
「……しずるさん、貴女の喜ぶ顔が見たかったからです。それ以上でもそれ以下でもありません。新幹線の最寄り駅は遠くありませんし、大丈夫でしたよ。気になったことは確かにありましたが、それはこちらに遅れてしまうこと、でしたから。はい、そろそろ何ピース召し上がるか、教えて下さい」
大したことじゃないですよ、みたいに軽く言ってしまうみさきさん。
「……ずるい、わ」
せっかく用意してくれたのに、とは思う。
でも。
「え?」
驚かれても、言わずにはいられない。
「そんなに格好いいのに、優しくて、気配りができて。そんな人に好かれてるなんて、嬉しくない……筈はないでしょう? でも、もう少し、時間を下さい。少しずつデート……とかを、して……。それで……」
「……はい、ありがとう、ございま……す!」
「危ない!」
みさきさんの返事の勢いで、大きく揺れたお盆。
「大丈夫」「良かった、格好いいみさきさんとお母さんの大好きなチーズタルト、素敵な誕生日プレゼントになったね。はい、新しい紅茶!」
チーズタルトの危うくの落下を止めてくれたのは、笑顔の京さん。
それから、茶葉を代えたティーポットとカップ達を持ってきてくれたのは由都だった。
「聞こえた? 聞こえたわよ、ね?」
そっと二人に尋ねたけれど、二人とも、笑うばかりで答えてはくれない。
……みさきさんは?
「すみません……少し……お待ちを……」
深呼吸をしていた。
え……。かわいい。
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