第42話 内緒に、ならない。

「おいしそう、いただきます!」


 指定校推薦合格済の我が子に先生が気を利かせて下さったらしく、お昼休みに入ってすぐにさっ、と進学相談を終えて頂いた愛娘、由都。


 その為、学校でお昼を食べてこなかったので、今日のお昼はシナモントーストとハムエッグになりました。

 私だけだったら普通のトーストと目玉焼きかも。


 スープは冷凍庫から好きなものを選ぶ。

 おいしいスープを何種類かまとめて通販で購入、冷凍庫に常備しているので、選択肢は多い。

 私はカボチャのポタージュ、由都は参鶏湯サムゲタン。由都の分があるからきちんと湯煎。レンジでも十分おいしい優れもの。


「はい、いただきます。ネイルの話はちゃんとするから、とりあえずきちんと食べましょう」

「お話は私もしたい! だけどお母さんのお話って、ネイルのことなの? 見せてもらえたらそれで……。もう一度。いただきます!」


 あら、ネイルのことは気にしてないのかしら?

 由都は結局、チーズトーストとミネストローネもおかわり。もぐもぐ食べる愛娘もかわいい。


 ……さて、そろそろかしら。


「はい、ごちそうさま? じゃあ、これ、ネイルなんだけど」

 空いている椅子に置いていた小包から、みさきさんに渡したい色だけを取り出してテーブルに。


 ……それにしても、やっぱり、内緒にはならなかったわね。


「きれいだね、見せてくれてありがとう。絶対喜ぶよ、みさきさん。あ、私のはクリスマスイブによろしくね!」


 ……え。

「それだけ?」

 透明なラッピングのまま、特に触れもせず、色を軽く確認したらおしまい、みたいな由都。


「他に何か必要?」

 逆に、驚かれてしまった。


「他に何か必要よ……ね? お母さん、今、由都にネイルの色を見てもらったでしょう?みさきさんの爪にのせたいとかやり過ぎだよお母さん! とかみさきさんにはちょっと合わない……とかはないの? もしそうなら、私が使おうかと……」


 すると、ええっ! みたいな表情の由都が慌ててネイルを私の側に押し戻した。


「……はい、しっかり握って! 渡さない、なんて! それはダメ! やめてあげなよ! みさきさん、お母さんが選んでくれたものなら何でも嬉しいから。例えばコンビニスイーツとかでも、みさきさんが好きそう、って、お母さんが考えてくれたこと、これが大事。逆に、これで私が何か言って、そのネイルがお母さんの普段使いになったりしたら! 事情を知ったらみさきさん、がっかりするよ!」

 すごく真剣に考えてくれている。ありがとう。


「……でも、ね。みさきさんから頂いた朱鷺色のネイルみたいに、色から選んだんじゃないのよ。何て言うか、その……私の名前……ぽいなあ、みたいなのを、選んだから。そう、由都に似合うわ! って選んだネイル達とは違って不純と言うか、そんな感じで……!」

 そう、それが問題なの。


 ううん、と首を振る由都。

「それこそみさきさん、喜ぶから。爪にのせてほしい、とか感動!ってなるから! それより、お母さんのお誕生日の話をしよう?私、週末はお父さんの所に泊まるから、日曜日のお母さんの誕生日はお父さんのお家に来てね! お父さんとケーキとサンドイッチ作って待ってるから! みさきさんはおいしいもの持ってきてくれるって! 楽しみにしてて!」


 ……そう?

 じゃあ、自分の名前を思わせるネイルをつい、購入してしまったのはこの際置いといて……。


 とりあえず、誕生日をお祝いするからね! って言ってくれている愛娘がかわいい、嬉しい……ケーキとサンドイッチ。


 嬉しいけど、由都がおめでとう! って笑顔で言ってくれたら、それだけで嬉しいの!


 ……あ。


 。それだけで。


「ありがとう、由都ちゃん。楽しみにしてるわ。それから、みさきさんが私にネイルを選んでくれた時の気持ちとお揃い、とは言えないし、爪にのせてほしい、って断言もできない。けど、やっぱり、私が考えて選んだネイル、みさきさんに持っていてもらいたいからクリスマスイブにお渡しするわね」


真正面には、私が大好きな由都の笑顔。

「そう、それで良いの! 私、クリスマスイブまでは秘密にするからね。今はとにかく、お母さんのお誕生日の方だから!」


「楽しみ。本当に、待ち遠しい」


「ね!」


 ありがとう、由都ちゃん。


 お母さん、日曜日は全力で誕生日のお祝いをしてもらうからね。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る