第38話 BMWとお土産、それからメール。
普段は空になっている我が家の屋根付きの車庫に車が入庫する気配がした。
……エンジン音がして、それが止まる。
「お母さん、ただいまあ! ご飯食べた?」
BMWから飛び出してくる愛娘。かわいい。
「お帰りなさい。食べたわよ、ビーフシチューとコーンパン。昼間購入しておいたの。おやつのチョコレートケーキは由都ちゃんの分、冷蔵庫にあるからね」
「やった! あとこれお土産ね、フルーツ大福だよ! 巨峰入りとミカン入りと……。あ、みさきさんはお父さんと一緒にお家に送ったよ!」
「ありがとう、みさきさんも無事に帰宅されたのね。……由都ちゃん、大丈夫だと思うけれど、宿題は終えていたかしら? 明日の用意は? 一応確認してね。……京さん、みさきさんと由都をありがとう。お茶でもいかが?」
「そうだよお父さん! あ、お母さん、みさきさんは、これから少しだけ勉強するかも、だって。私も少し予定を確認する!」と言って家の中に入る由都。
それにしても、京さんは相変わらずスタイルと姿勢と見た目が良い。ショッピングモールでも思ったけれど。
長身に、均整の取れた体型と黒目と黒髪長髪も。絵になる、とはこういう人のことだ。
これでよく女子高校生から偏屈教師と呼ばれる擬態が出来るものだと思う。
ああ、それでも……確か、顔は良いけど偏屈な物理教師、だったかしら。
「……? 僕に見とれてくれているのかな。いや、冗談だよ。今週は冬期補講の対象になるかならないか、の
確かに、少し重めの保冷バッグ。
「京さんが由都と居るときに素敵なのはいつものことでしょう? それにしても、お土産ありがとう。……嬉しいけど、すごいものが出てきそう。重量感が」
「本当は玄関まで運ぶのだけれど、ごめんね。しずと由都においしいものを食べてもらいたい、ってただの僕の希望だから、気にしないで。じゃあね、由都によろしく」
さようなら、ありがとうと告げてから玄関に入り、鍵とチェーンを掛けてから中身を確認。
冷凍の国産高級豚肉たくさんと、ごまだれ。保冷剤。
……本当に、京さん、って感じ。
「あ、メールが……」
冷凍庫にお肉と保冷剤を入れてから、スマホを確認。
エンジン音を聞いたのでダイニングに置いていたスマホに、京さんからメールが入っていた。
……時間的に、エンジンを切った頃かしら。
『土岐さんは素敵な人だから、そういう感情を示されて驚いたかと思うけれど、僕はしずなりに誠実に対応していると思うよ。焦らずに、ゆっくりと進んでね。先達庵のお二人のことは先方から許可を頂いて由都と土岐さんから訊いたよ。素晴らしい出会いだったね。僕も嬉しい。では』
……ありがとう、京さん。
由都は自分の部屋に行っている。
私はゆっくりと思い出していた。
「……若い方には早くお返事を、と思ってらっしゃるかもしれないけれど。気持ちを伝えてくれた方にちゃんと向き合おうとされている貴方はとても素晴らしいことをしているの。ご自身のペースで、ね?」
蕎麦がきのお汁粉の販売のお手伝いをしていた時、さち江さんが仰ったことを。
……京さんのメールと、重なる。
ゆっくりと、
さっき購入した、みさきさんへ贈りたいもの。
あれもきっと、その一部になってくれる……筈。
……やっぱり、買って良かった。
そうしたら。
『先生と由都ちゃんに送って頂けて、今家で落ち着きました。今日が充実していたので、少しだけ勉強するつもりです。本当に、二日続けて会えたのが嬉しかったです! 今年はお誕生日をきちんとお祝いさせて下さいね!』
……はい、楽しみに待っています、とみさきさんからのメールに返信しようとして、手を止める。
『ありがとう、こちらこそ嬉しかった。お祝い、楽しみにしてます! お勉強、無理はしないでね』
文を直して打って、送信。
……できた。
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