第36話 [愛娘の父親 京]しゃぶしゃぶとフルーツ大福と。

「『しずるさんを思うみさきさんを応援するぞの会』。良いグループ名だよね。土岐さんのご招待で、由都も僕もメッセージアプリで先達庵のお二人へのご挨拶はさせて頂いているから、帰りの車で色々話を聞かせてくれるかな」

「はい、すみませんでした、先生。先生にもお話して構わないと先達庵のお二人にご了承頂いていたことをしずるさんにお伝えしないまま別行動に入ってしまって」

「私も、もう少しお母さんとお話してからお買い物に行こう、っていう感じでみさきさんに言ってたら良かったかも……」

「いや、二人とも色々配慮をしてくれたんだから、やっぱり帰りの車で聞かせてもらうよ」 

「はい」「うん」

 そう、先達庵さんについてはとりあえず今はここまで。


 正直、しずが土岐みさきさんのことを良い意味で深く意識する契機をくれた方々のことだろうから色々伺いたい気持ちはあるけれど、この場に居ない人達のことを話すのはよろしくはないだろうから。


 何処にどんな耳目があるかは分からないからね。

 先程も僕達の愛娘と、それから土岐さんに声を掛けていたやからがいたし。


「さあ、食べよう。ここはしゃぶしゃぶは勿論、デザートもおいしいよ。フルーツ大福が僕は好きだなあ。巨峰入りとか色々あってね」

「ありがとうございます」

「いただきまーす!」

 恐縮する土岐みさきさんと、若さに溢れた食欲旺盛な愛娘由都。

 とにかく、心おきなく食べてもらいたい。


 ……さて、と。

 食べ始めたら土岐さんもちゃんと食べてくれたので良かった。 

 灰汁あくが浮いた鍋を三度交換してもらい、デザートを注文し終えたのでそろそろかな、と二人を見る。


「しずの誕生日プレゼントはどうなったかな、土岐さん。僕達は既に準備が出来ているけれど」

「はい、由都ちゃんのお陰で良いものが見付かりました。……お二人はしずるさんのお祝いをされますよね? 当日、贈り物をお届けしたらご迷惑でしょうか。前日とか配達をお願いした方が?」

「……え、今年はみさきさん、一緒にお祝いをしないの? ご実家に戻るの、毎年クリスマスのすぐ後くらいだったよね? 去年も……あっ!」

 おや、気付いたのかな。

「……当日に一緒にお祝い、させてもらっても良いのかな。帰省は確かにそのつもりだよ。去年は由都ちゃんに実家に付き合ってもらったね。ありがとう……そうだ、そう言えば……!」


 ……やっぱり、思い出したみたいだね? 由都。


 君のお母さん……しずがなぜ、君と土岐さんが恋愛関係だと信じて疑っていなかったのか……その理由の一つを。


 そして、土岐さんも、かな。

 

 そう、しずはこう言ったよね。


 去年の由都の冬季休暇の時、「」って。

 僕も土岐さんのご実家に伺う由都の見送りと迎えに行ったから、確かに聞いたよ?


「……そう、だ。お父さん、気付いてたんだよね? お母さんがみさきさんの好きな人、私だと思ってたこと。……それで、誤解させちゃったの、私……とみさきさんのせい、だって」


「……申し訳ありませんでした、先生」

「まあ、そうだね。由都、君が積極的に誰かを褒めて、お友達や僕やしずを除いたらかなりの回数、土岐さんに会いたいと言い、たまにはお泊まり。更に、クリスマスの後、冬休み直後にはご実家にまで誘われて。そんなことは今まで無かったよね? 年末には帰宅したとは言え、母親が何かを思うのは全くおかしくはないよね。そもそも、しずは同性同士だからいけない、という人ではないから。……あと、土岐さん、詫びる必要はないよ。自身の学問と就職活動の合間に由都の学習の為に便宜を図ってくれたことは理解しているつもりだ」

 ……これは、とても重要なこと。


 しずも僕も、家庭教師として真摯でいてくれた土岐みさきさんのことをとても好ましく感じていた。


 ……そして、僕は。


 今は愛娘由都を思う母親しずを大好きだと、愛してくれている人を応援したいと思わずにはいられないという心境なんだよ?



 



 




 

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