第6話 デート?なので訊いてみた。
「あ、あのう。せ、みさきさん」
「はい、何でしょうか」
愛娘、由都のお代わりのまん丸ハンバーグがテーブルに置かれた後で先生……みさきさんに思い切って訊いてみた。
「私のこと、を、そのう……。初めて会った時から……」
下を向く私に、変わらず正面から答えてくれるみさきさん。
「はい、一目惚れでした。元々恩師でもある先生の奥様でいらした方ということで素敵な方だろうな、と思っていましたし、娘さんの由都ちゃんも勉強に対する姿勢が素晴らしいし、可愛らしい。ですから、とても素敵な女性にお会いできるんだろうなあ、と更に期待してお宅に伺いました」
先生、は由都の父親。みさきさんの高校時代の物理部顧問で、私や由都に見せる表情とは全く異なる「偏屈教師」(本人談)なのだが、恩師と呼んで慕ってくれている。
愛娘の家庭教師としてこんなに良い方を紹介してくれたなんて、と私も感謝していたし、離婚後も親友同士の間柄だ。
みさきさんにとっての恩師はもう一人いらして、学年主任でいらした先生なのだとか。
その方は、私も顔見知りの方だ。
偏屈(苦笑)な物理教師にしては珍しく、同僚で友人だよ、として紹介された事もあるから。
「お父さんが急用で遅れるから、って私が迎えに行ったんだよね?」
まん丸ハンバーグを鉄板からお皿に移動して、一つにはデミグラスソース、もう一つには塩コショウをかけながら由都が言う。
「そう。駅からお宅までの道すがら、しずるさんがどんなに素敵な女性かを由都ちゃんが教えてくれました。そして、玄関を開けて下さって、挨拶をして頂きました」
そんなに丁寧な対応をした記憶は無いけど。
勿論、愛娘を教えて下さる方だからきちんと、とは思ったわよ。母親ですから。
「ええと、確か。……初めまして、由都の母でございます。だったかしら?」
「はい。礼をして頂いた時の佇まいで、お二人に聞いていたよりも可愛らしい方だと思いました。……それから私の目を見て和やかに笑って、そして」
「そして?」
「お帰りなさい、と由都ちゃんに微笑んでいらした。……それが決定打でした」
「決定打」
決定打。……何の?
私も、すらりとしていた土岐さんの美しさには驚いたのよね。あの時は、土岐という名字だけを伺っていたわ。
そう、とてもきれいな、すらりとした人。
高校生……。モデルさん? 違うの? って。
ただ、私……そんなに印象的だったの?
由都へのお帰りなさい、は多分いつもと変わらなかったと思うのだけれど。
「……あれ、絶対にみさきさんの一目惚れだったよ。すごいもの見てる、って思ったからね、私! お父さんと同じくらいカッコいい、その上美人な先生がお母さんの前では可愛くなってたからすごく驚いた。……この間の告白の後で、お母さんが気付いてなかったことにも驚いたけど。因みにお父さんは合流した瞬間に理解してたよ。……あ、サラダお代わりして良い?」
たくさん食べる娘もかわいい。
でも、一目惚れ……本当?
それに、由都のお父さん……あの人も、最初から知ってたの?
「そう、なのね」
一応、平静を装う。それから。
「あ、サラダね。どうぞどうぞ。あ、私もアイスコーヒー欲しいな。……みさきさんは? 飲み物は?」
「同じく、アイスコーヒーをお願いします」
きちんと話を聞けた年上の人、出来ているかしら。
……スイッチ、スイッチ。
……。
当たり前だけど、今度は呼び出しスイッチにみさきさんの手は重ならなかった。
……あれ?
私、どうしてがっかりしてるのかしら。
サラダのお代わりとアイスコーヒーを二杯。
店員さんにお願いして、それらがテーブルに届く前に、お冷やを頂いた。
……何だか少し、暑いので。
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