第5話 お食事会ですよね……デートなの?

「わあい、きたきた!」

 目を輝かせる愛娘、最高にかわいい。


 炭火で焼かれた丸い大きなハンバーグが二つ。牛肉100%。


 それを鉄板に自分で焼き付けて、ソースはお好みで。好みの焼き色が付いたら鉄板から移動。

 オニオンソースかデミグラスソース。塩コショウも良い。


 メディアでも美味しいと話題の、でも、全国展開はしていないハンバーグ専門チェーン店。

 実はチェーン店の一つが我が家から割と近くにあるので、朝一番で整理券を取っておけばこうして並ばずに味わえるという訳。


 実は、整理券は愛娘が取ってくれた。自転車移動で。


「散歩に行って来るね!」

 そう言われて見送ったら、帰宅したその手には整理券が。


「散歩のついでだから!」だって。

 因みに、観光地近くの店舗などは休日は400分待ちとか八時間待ちだとか……。さすがにそれは厳しい。

 行動範囲内にこのお店があって良かった。


 そんな人気チェーン店で

「ソースをおかけしますか?」と確認してくれた店員さんに「全員自分でかけますので大丈夫です」とはっきりと伝える愛娘が凛々しい。


 怒濤の告白(……なのよね)から一週間後、愛娘の指定校推薦合格祝いと家庭教師をしてくれた先生へのお礼を兼ねて食事会、となったのだけど。


「あのハンバーグ専門店が良い!」という愛娘の鶴の一声。


 一応、先生にもメールで尋ねたら「私もお二人とあのお店に行くのは大好きですから嬉しいです」と返事が。


 せめて、年長者の私が奢るぞ! と決意したのでした。


 私の仕事というか収入源は、株取引。


 大学時代に学生結婚して、休学して愛娘を育てながらまた復学して無事に卒業。

 その間も友人だった頃から色々助言をしてくれていた由都の父親(まあ元主人、とも言うけど)が勧めてくれた株から始めて……結局、きちんとお勤めしている人達くらいの収入がある。


 大学卒業後、名門私立高校の物理教師としてきちんと働いていた当時の主人も株取引は順調にこなしていたので貯蓄も割とあるし、愛娘の為の学資保険も盤石。


 離婚しても、慰謝料ではなく生活費が毎月入金されている。


 「両者納得の上での離婚なのに、毎月入金なの?」と私が訊いたら「当然でしょう、しずへのボーナスは年二回かな?」と真顔で言われた。あれはきっと、冗談ではなかった。


 今はまだ毎月入金のみにしておいて、と言ってあるけれど、こっそりと増額されそうで少し心配だ。


「あの指輪ですが、もしもしずるさんが由都ちゃんの家庭教師代を払って下さっていたら、他のバイトを増やして購入するつもりでした」


 え。お金の事を考えていたの、伝わっちゃったの? 以心伝心? 違うわね。


「もう、先生! デート中に話す話題じゃないよ! もっとお母さんを褒めるとか!」

 あ、違ったみたい。


 だけど……これ、デート? なの? 食事会じゃないの?


「……しずるさんがかわいらしいのは常に当たり前のことだから、普通に見とれていたよ。そういう会話をするのがデートなんだね。うん、勉強になる。ありがとう、由都ちゃん」


「どういたしまして。まあ、お母さんがかわいいのは当たり前、っていうのが分かってるしずるさんは偉いけどね!……あ、お母さん、私まん丸ハンバーグお代わりして良い?」


「え、どうぞどうぞ、どんどん食べてね!あ、呼び出しスイッチ……」


 私の正面に先生……みさきさんがいて、そちらにスイッチがあった。


 それを押そうとした私の手に、みさきさんの手が重なった。


「……すみません」


「どういたしまして。役得です。……一緒に押しても良いですか?」


「……はい」


 デート、食事会、デート……。


 分からない。けど、隣席の愛娘は、「お母さん、かわいい」と笑っている。


「うん。同感」


 真正面の先生の黒い目が、真っ直ぐ私の方を見ている。


 うう、相変わらず端正。


 これってやっぱり、食事会、デート、デート……なのかしら?







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