第4話 [愛娘 由都]お母さんとお父さん、そして先生……みさきさん。
私の名前は
綺麗で優しくて厳しくて、私のお母さんのことが(恋愛として)大好きな家庭教師の先生(女性)のおかげで、無事に志望大学の指定校推薦が決まったばかり。
成績は良い方。理系科目が好きで得意。
外見は……私の事をかわいい、とか言ってくれる人もいるけど、絶対に私よりもお母さんの方がかわいい。
あ、お母さんにかわいいかわいい! と褒められるのは大好き。
まあ、かわいい人、と褒められるべきなのはお母さんなんだけどね! 髪の毛はさらさら、お肌はつやつや。
これはお母さんと離婚はしたけどお母さんのことを親友で盟友、と言っているお父さんも同意見。
あ、お父さんに由都、かわいいよ、って褒められるのも、好き。
お父さんは背が高くて細身でスタイルが良い。顔もかっこいい。長い黒髪と、眼鏡も素敵。
私の友達は「もっのすごいイケオジ!」と言っていた。もっのすごい、が力強かった。
離婚はしてるけど、お母さんとお父さんと私は最低でも月に一度は食事をしたりお買い物をしたり映画を観たりと仲良くお出かけしている。
あと、私がお父さんと二人だけで会うのも全然構わない、ってお母さんも言ってるし、実際そう。
むしろ、「この美術館なら何度も行ってるでしょ? 一緒に行ってあげて」と、私が行きたい展覧会にお父さんが付き添ってくれるように連絡してくれたりもする。
そんな時は帰りに待ち合わせて三人で外食、とかもある。
多分、そんなに仲が良いのになんで離婚したの? って思う人が大半だと思う。
離婚したのは、私が中学校に入って少ししてから。……なので、少し時間を戻して。
仲良しだけど、離婚はしている。
でも二人とも、私を大切にしてくれるという多分、普通とは違う。そんな関係の最初は、こんな感じ。
「僕にとっては二人が一番大切。だけど、お母さんにはまだ他の人が現れるかも知れないからね。お母さんを自由にしてあげたいから離婚しようかと思うのだけれど、由都はどう思うかな」
真剣な顔でお父さんにこう言われた時は驚いた。
しかも、そう言われたのは中学校の入学式の帰り道だよ?
だけど、不思議なくらいにそうかも、と思えてしまったので、嫌! ダメ! とか言うこともなく、「お母さんも同じ意見なら賛成」と私は答えた。
お父さんは、にっこりしていた。
そして、私を挟んでお父さんの反対側にいたお母さんはと言うと。
「いつかはそんな事を言うと思っていたから」
全く驚いていなかった。
その後少ししてから、三人で暮らしていた一戸建てがお母さんと私の二人暮らしのお家になった。名字もそのまま。
お父さんのマンションは徒歩圏内で私は合鍵をもらった。私の部屋もある。気分転換したい時はご自由に、だって。
だから、マンションの私の部屋だけは私とお母さんがコーディネーターさんと内装について相談した。すごく気に入っている。
「合鍵、頼まれたらしずにも貸してあげて。渡そうと思ったらそう言われたから由都に預けるね」
そう言って、色違いのキーホルダー付きの合鍵を二本渡された。
一本は普段から持ち歩いて、もう一本は私とお母さんのお家の私の部屋に置いてある。
しず、とはお母さんのこと。
離婚したらしずるさん、か名字で呼ぶべきかな、とお父さんが言ったら「水くさい」と叱られたみたい。お母さんらしい。
叱られているお父さんを想像したら何だかかわいく思えておかしくなった。
授業参観にお母さんが来ると、男女共にちょっとした騒ぎになる。小学校の時もそうだったけど、中学校では更にうるさくなった。
お姉さんかわいい! 美人だね! 由都、やっぱり似てる! とか言われる。私は最後のが一番嬉しい。普通にかわいいって言われるよりも何倍も。
ただ、母なんだけど、とか、お母さんだよ! って言ってるのにほとんど信じてもらえない。
家に呼ぶくらいに仲が良い友達は、「まあ、しずるママさんなら仕方ないって!」って笑ってた。
これがお父さんだと、何だかヘンな感じになる。
他のお母さん方が、私達生徒じゃなくてお父さんを見詰めたりするの。生徒や先生も、の時もある。
それが分かってるからお父さんは時間をずらしたり、地味目な服装にしたりしてくれるんだけど、顔を隠しても長身でスタイル抜群なのが分かっちゃうんだよね。
そんな感じで、離婚はしているけど、私のお母さんとお父さんな事は間違いない、大好きな二人。
その愛娘(自分で言っちゃう。二人は私の自慢だから、愛されていると思うのはすごく嬉しい)から見て、離婚後はお母さんの事を好きなんだろうな、って人は何人かいたんだけど、お母さんはいつも、気付かない。
お父さんは、自分へのそういうのは気付いていても知らないふり。
ただ、私と二人でカフェにいて逆ナンされた時はさすがに軽く怒っていた。
「かけがえのない、大事な娘との時間を邪魔しないでくれないか?」って。
顔が良い人が静かに怒ると怖いんだなあ、としみじみと思った。
お父さん、軽く、じゃなくて凄く怒ってたんだ。
勿論、私に向けるのは穏やかな顔だけど。
逆ナンを追い払ったあと、お父さんはお店で人気のケーキをおごってくれた。一位から三位まで全部。
「困るね、ああいうのは。由都は適当にあしらえるから大丈夫だと思うけど、しずはヘンな奴が近付いても分からないかも。気を付けてあげてね」
「今のところ大丈夫。そもそもお母さん、気付かないし自分が対象、とか思わないよ」
そうか、しずは学生時代からそうだったよ、とお父さんは笑った。
そう。気付かないなら、教えてあげない。お母さんには私がいるから。
そう思っていた。
先生……みさきさんに会うまでは。
初めて先生と会ったのは、お父さんの家、マンションの一階にあるティールームだった。
先生が個人的にお父さんと会ってた、とか、ヘンな意味じゃなくて、お父さんが先生を私の家庭教師にどうかな、って推薦してくれたの。
もうすぐ中学二年生になる頃。
「君も、僕やしずる……お母さんのように人からの視線を集め易いからね。塾とかよりも、信頼出来る人に家庭教師をしてもらった方が良いかな、ってお母さんと話してたんだよ。……この人は大丈夫だから」
土岐みさき先生は、お父さんが先生をしている偏差値がものすごく高い私立女子高校の生徒さんだった。
幽霊部員さえいない年もあるというお父さんが顧問をしている物理部の部員さんでもあった。
そして、付属の大学じゃなくて更に高レベルの他大学を目指している人なんだって。
綺麗な人、と思ったけど、一番印象に残ったのは、私を真っ直ぐに見てくれたこと。
そして、かわいいね、とかじゃなくて、
「土岐みさきです、初めまして。先生から聞いています。貴女が好きな科目は理科と数学。……私も理科は好きだった。今は物理が一番好き。もし良ければ一緒に勉強しましょう」と言ってくれたことも。
お父さんに好印象を持ってもらいたいから、とか、お母さんとか私に興味があるっぽい人は、二人が離婚したら、更に増えた。
でも、この人は、そういう人じゃない。
すぐに、分かった。嬉しかった。
学ぶことが好きな人を応援したいと思ってくれているんだなあ、って安心した。
勉強をしたい人に、教えたい。
そんな目をしていた。
「先生になってくれたら嬉しいです。……でも、付属の大学に進学しないってことは、たくさん勉強しないといけないんじゃない? 私の先生になってもらっても平気なの?」
一応、お父さんに尋ねてみた。
「物理部の部活動として申請するから大丈夫。伝説の部員が稼いだ部費もあるから、先生……土岐みさきさんの参考書とかはそれで購入するよ。それに僕がバイト代を足す」
私に関する費用はお母さんとお父さんで相談してどちらが払うかその都度決めよう、と言うのが離婚後の二人の約束だった。
今回は私の勉強の為だからお母さんも払いたい、と言っていたみたいだけど、先生を紹介してくれたのがお父さんだから結局こうなったらしい。
伝説の部員さん、はかつて、物理部の活動ですごい賞に入賞した人のこと。
その人は今みさき先生の志望大学の准教授さんなんだって。
伝説さんも志望大学の卒業生で、お父さんも当時、進路相談に乗ったみたい。
「よろしくお願いします!」
私はおじぎをした。
ティールームで軽くお話して、その日は解散。
「素敵な人だったよ」と帰宅した私はお母さんに伝えた。
「貴女のお父さんが勧める人なら安心だから、あとは由都ちゃん、貴女が勉強を教えて頂きたい先生だと思うか思わないか、で決めなさい」
笑顔でそう言って、顔合わせには同席しなかったお母さん。
だから、その翌週、みさき先生は私達二人の家にわざわざ顔合わせに来てくれた。
そこで、先生はお母さんに見事なくらいの一目ぼれをする。
それから私は先生からかわいい! って褒められるのも嬉しいなあ、と思うようになっていった。
この辺のことは、またの機会にお話できれば、と思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます