第3話 お友達?から始めましょう。

「え、ええと。好き、好き……なんだけど、恋人、は……。あ、いえ、娘となら即認めます! のつもりだったんだけど……心の準備が。それから、指輪! 指輪を大事な貯金と自分で働いたお金で用意するのは偉いわ! さすがは私の娘の家庭教師の先生!」


 ……どうしよう。


 みさき先生、端整な顔立ちなのに、私が言った好き、に反応して、すごくかわいい顔になっていて。正直、驚いた。


 切れ長の目とか、シャープなあごのラインとか、普段はモデルさん? みたいな感じで、愛娘のかわいさを見慣れた私でもびっくりするくらいに綺麗な人なのに。


 今は娘とはまた別の意味で、かわいらしいの……。


 問題は、私がこのかわいらしい表情をさせてしまっている(のよね?)ということなんだけど。


「私、先生に好き、ってちゃんと人間的に、だって言えてたわよね?」って。


 娘……由都に小声で確認したら。


 こくこく、と頷く娘。やっぱり、こちらもかわいい。


 良かった。先生の美貌に、つい、好き、とか言っていたらどうしようかと。


 じゃあ、ととりあえず会話を続ける。


「と、とにかく、由都の推薦入試合格後はあんまり先生とも会えなかったし、どうかな、今度皆でお食事でも……。あ、指輪は先生が持っていて下さいね」


「持っていて、良いんですか?」

 かわいい表情に、きらきら? が加わった。

 え、私、何かを期待されているの?


「……お母さん、恋人からは今はまだ難しいけど、お友達から、なら良いよね、ね? 先生なら、私とお付き合いしても許す、って思ってくれてたんだし。まあ、これは誤解だったけど、でも、お母さんが先生の事を信頼してるのは間違いないでしょ? だから、とりあえず、先生、じゃなくてみさきさんて呼んでみる、とか。で、先生、みさきさんがお母さんの事をしずるさん、って呼ぶのも了承する。……これでどうかなあ?」

 愛娘からの助け船が出された。


 確かに、お友達……なら、むしろ大歓迎……よね?


 みさきさん、しずるさん呼びも、嫌じゃない……ていうか、あの美声で名前を呼ばれる……の? 


 あ、もう呼ばれてた! どうしよう!


 違う違う、落ち着くのよ、しずる!


 よく考えて……。


 先生は就職内定済み、由都は指定校推薦入試合格と、喜ばしいけど今のお休みのまま、家庭教師をお願いする事も無くなるのかなと思っていたし。


 お礼の意味でお食事会、とかは元々考えていたけど、『若い二人の仲を邪魔しないように』と思ってたのよね。


 もしも、二人が言いにくいなら、私の方から話をしようかな、とも考えていて……。


 待って。


 私、勘違いとは言え、先生がこんなに思ってくれていたのに、娘との仲を応援しようと思っていたの? 

 それなのに、まだこんなに私のことを好きで……いてくれてるの……よね?


 どうしよう。


 別れた元夫とは恋愛というよりも気の合う大切な仲間……そんな感じで一緒にいたからなあ。

 今でも仲は良くて、お互いに親友だと思っている。娘も含めて関係はとても良好。


 だから、きちんと好きです、なんて言われたのって私……初めてかも知れなくて。戸惑ってる。


 因みに、学生時代に付き合ってほしいとか言われたのはこの場合は数に入らないし入れない。


 そう。本気の好きです(よね!)、には敵わない。


 先生はきっと、外見とかじゃなくて(多少はあるかも知れないけど)娘と一緒にいる時の私……母親として、しずるという人を見て、その上で好きです、って言ってくれたのだと思う。


 さすがに四捨五入したら40になるくらい年を重ねていたら、若い人よりも分かることもあるのよ。


 だから、年齢とか性別とかを理由にするのは違うわよね。


「恋人からじゃなくて、ごめんなさい。でも、先生……みさきさんが良ければ、お友達からで……」


 自分で言いながら、お友達? と思っていたけど。


 正直、今はこれが精一杯。


 あ、そうだ、握手。握手ならおかしくないわよね? うん、おかしくない。


「嬉しいです! ありがとうございます!」


 先生が差し出した私の手を遠慮がちに握る。長い指綺麗。


 そして、やっぱり満面の笑みの先生……みさきさんがとってもかわいくて。


 だから。


「こ、こちらこそ……」と言うのがやっとだったのは、愛娘にも内緒ね。


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