34th mission 君の気持ち

 ――ツペッシュ村にやって来た俺達。今日の宿を決めて泊まるだけにしようと思っていたが、そこでとある事件に巻き込まれる。ガリレオと名乗る男のベイゴ魔法と対決し、見事に勝利を収めた俺は、村の老人たちから吸血鬼事件の話を聞かされる。村を救うために協力するか否かを悩んでいた俺達。アリナと俺は、2人きりで話し合いをしていたが……そこに思わぬ来訪者が現れる。ノース・ヘラトゥの奇襲攻撃によってアリナの体にはかなりのダメージが入り、そして吸血鬼と戦ったサマンサの隕石を

操る魔法は、通用しなかった……。運よく何処かへ消えてくれたノース・ヘラトゥだったが……。





















 ホテルの救急室のベッドの上。身体のあちこちに包帯が巻かれて、傷だらけのアリナが白衣を着た中年女性のお医者さんのすぐ傍でぐっすり眠っていた。医者が、アリナの姿を見ながら解説をする。




「……少し強い魔法攻撃を受けたのだろう。急所は外れてる。……おそらく、攻撃を受ける直前に避けようとしたのだろう。命に別状はない。……ただ、ダメージがかなり大きいのが問題だ。おそらく、目覚めるのに……少し時間がかかるんじゃないかと思われます」




 お医者さんは、それだけ告げるとすぐに自分のお仕事用の鞄に荷物を入れていって、帰り支度を始め出した。そして、彼は全ての荷物を鞄の中にしまい終えると言い出した。




「……また、何か様子が変化した時とかは、呼んでください。薬は、アリナさんの近くの机の上に置いておいたのでそれを飲ませて下さい。それでは、私はこれで……」





 お医者さんがドアを閉めて、部屋から出て行く。沈黙の空間と化したその部屋の中で眠るアリナ、そして喋る気力もないサマンサと俺が下を向いていた。




 あの後、すぐに俺達はアリナを救うべくホテルの管理人さんに救急室へ案内してもらった。そして、お医者さんを呼んでもらい、そのついでに例のガリレオやペチュニアおばさん達にも連絡してもらった。ガリレオ達は、夜がもう遅いと言う事で来るのは、次の日の朝という事になっている。


 そして、俺達2人はこのどうしようもないショッキングな感情を何とかしたくてひたすらに救急室の中で溜息をつきあっていた。




 俺は、勇気を出してサマンサに言う事にした。




「……すまない。俺がついていながら……。あの時、後ろから来ていた攻撃は、本当だったら俺が受けるべきものだったんだ。それなのに……俺は、逆にアリナに守られてしまった。……もっと早くあの攻撃に気づいていれば…………」




 この時、俺は正直ぶたれると思った。……いや、それどころじゃすまないんじゃないかとも思っていた。サマンサは、この場で俺に隕石をぶつけて来て……俺の事を殺しにかかるんじゃないかとそう思っていた。それを覚悟していた。しかし、サマンサの口から告げられた言葉は予想外のものだったのだ。





「……安心しろ。お前に怒ってなどいない。それに関しては、お嬢が自分からやった事だ。私がお前に怒った所でお嬢は、悲しむだけだろう」



 サマンサの冷静で、しかし何処か悲しそうなやるせなさを感じる声に俺の胸がきゅうっと締め付けられたようなものを感じる。




「……」



 俺は下を向いた。……しばらく何も言わずに下を向き続けた。サマンサも同じだった。しかし、少ししてサマンサが俺に言ってきた。




「……お嬢は、昔から優しい御方だった。本当の両親に捨てられ……ゴッドファーザー達の所で育てられて辛いはずなのに……ファミリーの中で誰よりも優しくて誰よりも気遣いができるそんな御方だった。……美しく、可憐で心優しく、純情で……。私の憧れの人だ。あの人は外を散歩する前、私に言ったのだ。この村を救ってあげたいと。ガルレリアスの気持ちは、誰よりも自分が分かっているつもりだ。だからこそ、彼のためにも吸血鬼と戦いたいと……」






「……」


















「……私は、正直最初は反対した。お嬢がわざわざお手を汚す必要はございませんと。この町は、お嬢にとって関係のない場所ですと……私は、言ってしまった。本当は違ったんだ……」





 サマンサの悲しい声を聞いた俺は、しばらく考え込んだが……ふと頭の中に名案が思いつき、居ても経ってもいられなくなってサマンサに言う事にした。





「……そういえば、アリナには傷を癒す魔法があるよな? それで、アイツ自身の体を癒してあげる事はできないのか?」





 すると、サマンサは深刻な顔をして首を横に振って俺に告げた。




「お嬢のあの魔法は、自分自身を癒す事はできない。誰か……心を許した人やお嬢自身が治してあげたいと思った人にしか使えないのだ。……大昔の神話に出てくる石に封印された巫女とは違うのだ」



 サマンサがそう言うと……俺は、アリナの首につけられていたネックレスみたいになっていた禁断の石をその手に握りしめてジーっと見つめていた。








 ――アリナ……。




 俺は、心の中で彼女の名前を呼んだ。そして、少し深呼吸をしてからサマンサの顔を見て彼女に向かって言った。







「……言いたい事がある。サマンサ、実はな……」


























           *



 ――次の日。アリナのお見舞いに来てくれたガリレオ達に救急室内でざっくり状況を説明。そして、その後にお茶でも飲みながら少し話す事になり、昨日の夜に寄った食堂の中でお茶を飲みながらゆっくり向かい合って座っていた。



 ガリレオもペチュニアおばさんも黙ったままで……何も言おうとしなかった。そんな状況下で俺は、隣に座るサマンサと目を合わせた後、彼らに向かって喋り出すのだった。







「……決めました」





 ペチュニアおばさん達がピクッと反応する。ガリレオも俺の事をジーっと見てきた。そんな中で俺は、彼らに言う。































「……やります。吸血鬼退治。……俺達もノース・ヘラトゥを倒すために戦います」










 ――To be continued.



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