32th mission 吸血鬼とご対面!

 その闇夜に出現した吸血鬼は、俺が想像した姿と全く異なっていた。ホテルの天辺に立つ幼女の吸血鬼。彼女は、見た感じ背は低そうだったがしかし、身長に不相応な位に強烈なオーラを身に纏っており、彼女の背後から強烈な闇の波動を感じる。幼女の背中につけているマントが風になびく。彼女は、俺らの事をジーっと見てきて口元だけでいやらしく笑みを零すと、更に告げてきた。





「……ふむ。案外、良い顔をしておるではないか……。なかなか、好みだぞ」



 吸血鬼ノース・ヘラトゥは、色気の混じったねっとりとした低い声でそう告げてくる。



 俺は、相手がいくら小さい年頃の女子であると理解していても……褒められた事に変わりはない。頬っぺたが赤くなったのが分かる。俺は、照れながら言った。



「……はははっ! 何を言っているんだねぇ~もう! おじさん照れちゃうぞ!」



 ――ちなみに俺は、まだ20代なので実際は全然おっさんではない。もう一度言う。おっさんではない。





 俺は、心の中で自分にそう強く言い聞かせながら緩んだ顔が治らずそのままの表情であの幼女を見た。




 すると、ノース・ヘラトゥは舌をべぇろ〜っと出して官能的に自分の赤いヌメヌメしたもので唇周りを舐め回しながら喋り出した。


「……ほんっと、美味そうな男よのぉ……。お主から搾り取った新鮮な精気は……とっても美味しそうじゃ……ンフフぅ」



 何だろう。ちょっとエロい。……俺は、この幼女に何かとんでもないことに可能性を感じたぞ。どうせならもっと近い距離でこういう事して欲しかった……ていう願望は良いとして。俺は、ノース・ヘラトゥのその言葉に言い返してやろうと思い、決め顔で口を開き、ビシッと言ってやった。



「なっ、なんて野郎だぁ! お前ェ! いったい今まで……何人の人の血を吸って来やがったんだ!?」



 正直、これが言いたかった。いや、吸血鬼を前にして言ってみたいセリフランキング1位だと思うんだ。このセリフ。何と言ってもこのセリフは、この後に相手の吸血鬼から返ってくるセリフもセットで完成するのだ。




 ──さぁ、言うんだ……。お前は、今まで食べたパンの枚数を覚えているか? となぁ!




 しかし、ワクワクしながら次のセリフを待っていた俺の元に告げられた少女のセリフは、俺が予想していたのと全く異なった。幼女吸血鬼は、指で数えながら喋り出した。




「……7、8……9。ふむ……ざっとこの村の人口の半分程度じゃの。だからまぁ、3桁はいっとる」



 ──馬鹿野郎! ちげぇだろうが!


 俺は、内心で求めていた回答と違う答え方をされて苛立ちを覚えたが、しかし一旦冷静になって考えてみれば、こんな事は仕方のない事。異世界の者に俺たちの世界で流行った漫画のネタなんて分かるわけがないのだ。悲しい……。俺は、カルチャーショックを受けた。



 すると、そんな俺を見てか上にいるノース・ヘラトゥは、またしても官能的な……誰かを誘惑するような笑みを浮かべ出して、途端に俺へ攻撃を仕掛けて来た。



「雑談は、この辺で良いだろう」


 彼女は、そう言うと手を俺達のいる下に向けて突き出して来て、そのままその突き出した拳をばっと開いて、掌を俺に見せながら何かを発射した。


 暗闇でよく見えなかったが、その攻撃は何か強烈な闇の波動のようなものを纏った飛び道具で、2発の攻撃が動けないアリナと彼女を腕の中で寝かしているせいで同じく動けない俺の下に降りかかってきた。



 ──まずい! この攻撃は避けられない!


 俺はすぐにそれを察した。……いや、というか俺だけなら逃げれる。でも、そうしたらアリナが1人残されてしまい、彼女に全ての攻撃が行ってしまう。そうなれば、次こそ命はないかもしれない……。




 ──どうする……。何かでアリナを守らないと!



 そう思った俺だったが、しかし今自分の周りには砂しかない。この村は小さな田舎村という事もあって石畳の敷かれた道は大通りにしかない。そのせいで、周りに砂しかないこの状況で強力なけん玉を作る事はできない。




 ──まずい! ダメだ! もう間に合わない!



 攻撃がすぐそこにまで到達してきた所で俺は咄嗟にアリナの事をギュッと上から抱きしめた。




「すまん!」



 ──後でセクハラだの何だの文句は聞く!だから今は……。



「俺にお前を守らせてくれ!」



 咄嗟にとった行動でアリナを攻撃から守ろうとする俺。しかし、実際に彼女の攻撃が俺の元に来ようとしたその時……!




 聞き覚えのある声が俺達を救うのだった──!




「……隕石よ! 降り注げぇ!」



 その一言の後、たちまち暗い夜空から流星が2つ……小さなその石が吸血鬼の放った攻撃の元にぶつかってきた。そして、ノース・ヘラトゥの攻撃を無効化する。俺とアリナはこの隕石を知っていた。俺は顔だけを上げて状況を見てみる。すると、俺達の前に可愛らしいピンク色のパジャマ姿に黒い魔法使いの帽子を被って、長い杖を持った女が立っていた。

 俺の腕の中で目を閉じていたはずのアリナも目を開けて彼女の姿を見ると、弱々しい声で告げた。





「……サ、マンサ……」




 彼女の苦しそうな声を聞いたサマンサは、ドスの効いた低い声でホテルの1番上に立つ吸血鬼を睨みつけながら言った。




「……貴様か。お嬢を傷つける者は、誰であろうと……私が許さん!」
















 ――To be continued.






 



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