吸血鬼ノース・ヘラトゥ編

31th mission アリナって女の子

 この田舎の村についてから俺の頭の中には、次々と色々な情報が流れ込んで来る。本当に情報の整理が大変で大変でしょうがないよ……。


 異世界にやって来た俺は、色々あってアリナとサマンサの2人共にカルデルーポを倒すための冒険を始めた。道中、たまたま寄ったツペッシュ村で吸血鬼騒動を聞いた俺達。当初の目的と違う事をしなければならないために俺は、吸血鬼問題に関してやる気がない事をアリナに話す。しかし、それに対して彼女は「やりたい」とはっきりそう言った。そして、彼女の話す真実とは……。





















「……ていうのもさ私……実は両親の顔を知らないんだよね」





「え……?」



 心の中でそう言ったはずの声を実際に口に出していた事に俺が気づくのは、隣で車椅子を転がすアリナが下を向きながらコクリと一度頷いた所であった。アリナは、ゆっくり口を開けて語り始めた。




「……実はね、私って捨子らしくてね。……赤ちゃんの頃に捨てられてそれを……今のパパとママ。つまり、グランティーノ・ファミリーのドン。……その人達が拾ってくれたの。子供がいない2人は、私の事を本当の娘のように大切に……大切に育ててくれたんだけどね……私が、12の時にパパが言ったの。……パパは、とても辛そうな顔で私に真実を教えてくれた。それでね……ママが私に聞いてきた。……それでも私達とこれからも一緒に暮らしてくれるかい? って……そこで私、パパが教えてくれた通り、しっかり目を見て”うん”と頷いて見せたわ。だって、私にとってのパパとママは、あの人達しかいないんですもの……」




「……」



 ――さらっと辛い事を話してくるなよ……。




 今度こそ言葉にしないで心の中だけでそう思った。……けど、そう思うのと同時にアリナのこう言う所に少しだけ尊敬する気持ちも芽生えた。





 ――この子は、これだけの辛い事があったにも関わらず、今日会ったばかりの俺にさえ自分の辛かった経験を話せている。凄いや……。





 俺は、自分がまだ……彼女やサマンサにエルビラさんの事を一度も話していないと言う事を思い出した。




 ――自分は、まだ正直言えない。自分の抱えている事を人に話すのだって勇気が要る事だ。……アリナは、凄いんだな。




 俺は、ちょうど月の明かりが差してより美しさの増している立派なアリナの姿をじーっと見ていた。すると、俺の視線に気づいたアリナは少しだけ頬を紅く染めて俺に言ってきた。




「……ごっ、ごめん! 重かったよね。いきなりこんな話をして……私、今日会ったばかりの人相手に何話しちゃってんだろ!」



 テンパるアリナ。しかし、俺はそんな彼女の姿を見て何か言ってやらねばと思い、自分の少ない語彙力から言葉を色々と考え出す。











 ――うーん……。とっ、とりあえずこれで……。




 俺は真っ直ぐ彼女の目を見て言った。緊張した体をアリナに向けて言った。



「……いっ、いや! 全然! むしろ、相談してくれてありがとう! お前にそんな辛い事があったなんて全然知らなかった! その……なっ、何か相談したい事とかあったらいつでも言ってくれよな! 俺で良ければ……相談位なら乗れるから! 何かできるってわけではないけどさ……」




「……」



 アリナは、黙って俺の事をジーっと見ていた。そんな彼女の姿に俺まで口を閉じそうになった。だが……。




 ――ここで、喋るのやめたら一気に気まずい雰囲気になりそうだな……。




 そう思った俺は、何とか次なる言葉を頭の中で作り出して言う事にした。




「……そっ、それにさ! アリナって結構凄いんだな! 今日会ったばかりの俺相手に……こんな凄い話を話せるだなんて。俺には、絶対無理。……話しをするのだって結構勇気がいるしさ……」



 ――あっ、あれ? こんなんで大丈夫か? なんか、絶対今変な事言ったよな?





 俺は、久しぶりに異性と2人きりで話すものだから緊張していた。自分の中で反省会をしながら……色々な事を考えていた。すると、ボーっと俺の事を見つめて来ていたアリナがようやく口を開いてくれた。




「……えへへ。ううん。そんな事ないよ。……私だって普通の人相手にこんな事をペラペラ喋ったりしないよ。……でも、なんでだろう? 大我は、なんか大丈夫な気がして……話していると色々安心するんだよね」




 アリナは、そう言ってくれた。俺は、彼女が少しだけ微笑みながら言ってくれた事に喜びを感じながら夜の散歩をアリナと共に続ける事にした……。























 




 ――結局、恐れていた沈黙が来たけど……思っていたより悪くない感じ?




 そんな事を思いながら俺は、アリナの車椅子のスピードに合わせながら歩いた。





 静かな夜だった。冷たい風が気持ちよくて……。とても幸せな気分だった。あんなに重たい話なのに……どうしてだろうか……。









 ――しかし、この幸せもすぐに崩れ去る事となる。俺の背後から何かが迫って来ているという事に俺は気づいていなかった。幸せな気分で俺が歩いているとその背後から……物凄いスピードで何かが飛んでくるのだった。





「……!?」



 俺の元に飛んでくるそのモノにすぐ反応できたアリナは、ピンチを悟って咄嗟に車椅子から立ち上がる。




「……危ない!」



 アリナは、そう言うと俺の体を押し倒すようにして自分の手錠で繋がれた両手を使って俺の体を押す。たちまちバランスを崩した俺は、そのまま転んでしまう。……しかし、俺を守ってくれたアリナは、というと……。





「……なっ!?」



 突然、俺の元へやって来たその謎の物体に当たってしまったアリナ。彼女の立っている場所から土煙が舞う……。





「アリナァァァァァァ!」


 俺は叫んだ。しかし、彼女からの応答はない。そして、土煙が少しずつ和らぎだすと同時にその中から体に傷を負って苦しそうな顔をしているアリナの姿が現れる。



「……!?」



 俺は、驚きつつもこちら側に倒れてくるアリナのボロボロの体をすぐにキャッチして支えてあげた。そして、謎の攻撃があったであろうその方向を俺は、ジーっと見た。





「……誰だ? 誰がこんな事を! どうして……!?」



 俺が、そんな事を口走っていると今度は上空から聞き覚えのない声が聞こえてきた。








「……ほぉ。惜しかったな。もう少しで殺せたというのに……」




 その声は、聞いた感じとても幼い印象だ。小学生くらいの女の子の声というべきか? ……声のした方を俺は、見上げる。なんと、そこは俺達の今日泊る6階建てホテルの屋上。その天辺に……声の主、小さい体でツインテールをした幼女が立っていた。彼女のしっかりした姿は、後ろの月明りが眩しくてそれ以上はよく見えない。しかし、間違いなく小さい女の子である事は確実だった。





 彼女は、俺と俺の腕の中で眠るアリナに向かって言ってきた。





「……貴様が、この村に新しく入って来たという……古代魔法の使い手だな?」





 ――俺を知ってる? さっき来たばかりだというのにか!?





 驚いた俺だったが、それをすぐに言葉にはしなかった。俺は、あえて冷静で大きな声でその幼女に聞き返す。






「……そう言うお前は、何者だ!」




 すると、ホテルの一番上から幼女は、自分の身に纏っている黒いマント(?)のようなものをバサッと広げながら言うのだった。







「……妾は、吸血鬼。……ノース・ヘラトゥ。以後、お見知りおきを……」







 
















 ――To be continued.



 

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