30th mission それぞれの真実

「俺の父さんと母さんは、吸血鬼に殺されたんだ」




 ガリレオのこの言葉に場は凍り付いた。今まで気に食わねぇ野郎だなとか思ってた俺でさえも少しだけガリレオの事を可哀そうだと思った。俺の隣に座るショッキングな顔を浮かべていた手足を拘束された美少女、アリナが恐る恐るといった表情で彼に尋ねた。




「……何があったの?」



 すると、ガリレオは口を大きく広げてカップに口をつけて一口だけ飲んだ後に語り出した。





「……数週間前、俺は吸血鬼討伐を国王に命じられ、故郷のこの村……ツペッシュ村に行く事になった。当初は、ツペッシュ村に大昔から存在する吸血鬼伝説っていう創り話を国王でさえも信じているだなんてと正直、思っていたが……しかし実際に村についてみると吸血鬼が現れた事は本当の事らしく。多くの村人が既に行方不明となっていた。……中には、俺の知っている人まで消えていたんだ」





「……」



 マジかよ……。俺は、ガリレオの話を真剣に聞きながらカップの中のお茶を飲んでいた。すると、ガリレオの顔が急に曇りだして、彼は重たい声で語り出した。





「……そんな時に事件は起きたんだ。村に到着した日の夜。俺は、早朝に村に到着してから一日中騎士団としての激務に追われていたので父さん達に会う事ができなかった。そこで、仕事を全て終えた俺は、サプライズをしようと思って夜に父さん達の家に向かった。その日は、ちょうど……母さんの誕生日でもあった。だから、俺はここへ来る途中で花を買っていて、それを渡そうと思っていた。奇麗な深紅の薔薇だった。今でも覚えている。……けど、俺が家に着いたその時、既に父さんと母さんは……襲われていたんだ」





 ――え!?




「……俺は、家に入るとすぐに何者かに襲われている父さんと母さんの姿を見た。ソイツの見た目は、夜の闇でよく見えなかったが、唯一分かったものがある。ソイツは、俺の家を去る時に窓から出て行った。そして、窓から外に出た後に大きな鉄の塊みたいな乗り物に乗ってこの村の森の奥へ消えてしまったんだ。追いかけようとしたが、その鉄の塊は馬と同じかそれ以上のスピードで走るものだから流石の俺も追いつけなかった。……そして、その鉄の塊こそ……」





 ――おいおい……。まさかのまさかだろう。




 ガリレオは、俺の方を向いて睨みつけると指をさして言ってきた。




「……そこの英雄などと言われている男が乗っていた車とかいうのと凄く似ていたんだ!」




 ――やっぱり……。そう言う事だったのか……。



 俺が心の中でそう思っているとガリレオは、更に言ってきた。




「……今、正直に言えばお前を国の法にのっとって処刑するのでとどめてやる。白状しろ! 吸血鬼め! 俺の父さんと母さんを返せ!」




 彼の突然の怒鳴り声に驚いた俺だったが、しかしだからといって俺も引くわけにはいかない。当然、言い返した。




「……何バカな事言ってんだてめぇ~! 俺が、人の血なんて吸うわけねぇだろ! 豚骨野郎!」



「……豚骨野郎じゃない! 俺には、ガルレリアスという偉大な名前があるのだ! そんな意味の分からん名前を俺につけるんじゃない! バカ者!」




「……んだとテメェ! だったら、俺にだって進藤大我っていう名前があるんだ! 分かったらその騎士団の筋肉バカなちいせぇ脳みそに俺の名前を叩き込みな!」





「貴様、それは……この国と王を侮辱するという意味か? もう許さん! 表に出ろ! さっきの続きだ! お前が古代魔法を1つ持っているかなんてこの際どうでもいい! 力の差を見せてやる!」




「望む所だ! かかってきやがれ! ガリレオ!」




 俺達が激しい口喧嘩をしているとその時、俺達の元にそれぞれツッコミ役がやって来て喧嘩を止めにかかった。




「……喧嘩は、やめろ! 進藤大我!」



 俺の元には、黒い魔女服に身を包んだサマンサが、自分の杖でコツンと俺の頭をぶって来た。




「……バカ者! 仲間割れしてどうするんじゃ!」



 ガリレオの元には、ペチュニアおばさんが頭に思いっきりチョップをして、喝を入れていた。




 そして、それぞれ痛い思いをした後に更に俺達の真ん中にアリナが現れて2人にそれぞれ言ってきた。




「……今は、そんな事を言っているわけには行かないでしょう。……もう!」




 とても怒っていたアリナがそう言うので俺は、つい頭を下げる。



「……なんか、ごめん」



 すると、ガリレオも同じく頭を下げて言った。



「……俺もすいません」





 俺達が、そう謝り終えるとアリナは、コクコクと頷いた後に言った。




「分かればよろしい……」




 そうして、その場は何とか収まる事ができたわけだった……。






















            *


 ――それから少し経ってから俺達は、一度解散する事にした。ペチュニアおばさん達の事は、ガリレオが送っていくそうで、彼は張り切っておばあちゃん達の送り迎えをしていた。この日は、ホテルに泊まると決めていた俺達は、ホテルに残った。



 だが、あんな話をしたわけだが実際に俺達は、まだペチュニアおばさん達の言う吸血鬼討伐に賛成したわけではなかった。というのも、単純な話として俺達は、正義の味方として各地を旅するのではなく、仲間を集めてカルデルーポを倒す力をつけるために各地を回っているだけなのだ。今回の吸血鬼討伐なんて……正直、俺達としてはどうでもいい。というか、俺的にはあのガリレオがうぜぇので、勝手にやってろって感じなのだが……。しかし、そうはいかないのが人間という生き物で……。まぁ、要するに良心が邪魔をするわけだ。




 俺は、サマンサとアリナとは別の部屋になってしまい、1人寂しくホテルの部屋の鍵を受け取り、とりあえず一回だけ中に入ってみたが……すぐに足が動いてしまい、結局俺はホテルの建物から出て、外を少しだけ歩こうとしていた。まぁ、軽い散歩だ。といっても、ホテルの周りをグルグル回るだけなんだけど……。









「……ふぅ」



 俺は、ホテルの人に服の選択を頼んでいたので、部屋のバスルームで体を綺麗にしてから外に出ていた。だからか、夜の風が物凄く冷たく感じる……。




 そんな冷たい夜の風を浴びながら月でも眺めて散歩を始めようとしたその時だった……。






「……大我!」



 俺の後ろから声がした。しかも聞き慣れた声。……俺が後ろを振り向いて見せるとそこには、両手足を拘束されて動けないはずの少女1人存在していて、何やら木でできた車椅子のようなものに乗っていた。





「……アリナ?」



 俺が、彼女の名前を呼ぶとその子は俺の元へまで車椅子の車輪を転がして移動してきた。


 気になったので俺は尋ねた。




「どうしたんだ? それ……」




 すると、彼女は答えた。



「……ここのホテル、サービスが良いのね。1人で移動できないと言う事をホテルの人に相談したら車椅子を出してくれたの。凄いわ……」




「へぇ……そんなのあるんだなぁ」



 俺は、素直に納得した。だが、すぐに沈黙となり、俺達は互いに話す事がなくなるとそのまま進み始めた。



















 ――うーん。しばらくこうしてアリナと一緒に歩いているけど……何だろう。離す内容がない。あれ? ……ていうか、俺もしかしたら女の子とこうして一緒に歩くのは初めてかもしれん。小学校の時にあったかな……。……あっ、ていうか待てよ。緊張してきたわ。まずい……普通にドキドキする。ていうか、今思ったけどこの子普通に可愛いよな? え? ……あっ、あれ?







 俺が、そんな童貞感丸出しの気持ち悪い事を考えているとアリナは、車椅子を転がしながら上に見える星空を見つつ俺に声をかけてくる。




「……ねぇ、大我」





「へっ、え!? あっ、うん!」




「……吸血鬼のやつ、どうしよっか~」




 いきなり、本題に入るやん。……あー、俺にもっとコミュ力があればなぁ。色々話をしていく中で自然な流れで持って行けたはずなのに……。




 とまぁ、思ったりもしていたが俺は真剣に彼女の問いかけに答える事にした。



「……俺は、反対だ。なぜなら……こんな事に時間を割いている余裕なんてないからな」




 ――そうだ。早くカルデルーポを倒すための力をつけて……そして、エルビラさんを……。




 しかし、アリナの言葉は俺とは真逆だった。




「……私はさ、やりたいなって思ってるんだよね」




「……え?」



 どうして……と聞こうとしたがそれよりも先に表情で俺が疑問に思っていると言う事を察知していたアリナは、俺に答えてくれた。





















「……ていうのもさ私……実は両親の顔を知らないんだよね」







 ――え?

































 ――To be continued.

















 

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