28th mission 嘘だよね!? お婆ちゃん!
「……は? 吸血鬼?」
俺は、固まった。しかし、目の前にいる老婆達、そして隣に座るサマンサやアリナ、そしてガリレオも皆、俺のような反応はしていなかった。
――吸血鬼位、こっちの世界じゃ普通か? でも、悪魔は神話の時代にやっつけたと聞いたし……。
俺は、そんな疑問を感じながらも老婆の話をとりあえずは聞いてみる事にした。
「……もう少し詳しくご説明して頂きませんか? お婆様」
手足を光の錠で拘束された美少女アリナが礼儀正しくそう言うと、老婆ことペチュニアおばさんは、説明を始めた。
「……ええ。……あれはですねぇ。ここ最近から起こるようになったんです。突然、村の人が家族単位で行方不明になるんです……。家に残されたのは、真っ赤な血。それが、テーブルとか床にベタっと塗り込まれていて……明らかに死んでる量なのに……肝心の死体だけがないのです。これは、どういう事なのか……最初の頃はよく分かりませんでしたが、数日前にとある木こりが森に迷い込んだそうです。そして、こう言ったんです。前に行方不明となっていたはずの人が、この村の一番奥の森の中にあるお城――ワラキア城の中で歩いていた。しかも、貧血を起こした人のように顔は真っ白で白目を剥いており、前歯は牙と化していたと……」
ホラーが苦手な俺は、この話だけでもちょっぴり怖かった。……というか、小便をちびりそうだ……。
――どうして、今までイタリアンだったのが突然……ルーマニアン化するんだよ……。あれか? これが、俗にいう「全ての道はローマに通ずる」とそう言う事なのか? ルーマニアもローマと言いたいのか? えぇ?
と、まぁそんな下らない事を頭の中に思い浮かべながらペチュニアおばさんの話を聞く事にした。お婆ちゃんは、言った。
「……今や村にいた半分程度の人々は、行方不明となってしまいました。それもたったの2週間程度で……。毎日、10~15人程度の人々が襲われていき、ついに残ったのは私達だけ。……どうか! お願いです。私達をお助け下さい!」
老婆は、そう言い終えると他の2人の老人たちと共に座ったまま俺達3人に頭を下げてきた。あんまり話を聞いていなかった俺は、キョロキョロしていたが……隣に座っていたアリナはしっかり話を聞いていたようで、彼女は真っ直ぐと老婆達に向かって質問を投げかけてきた。
「……なぜ、私達なのですか? 私達は、旅をしている者達に過ぎません……」
すると、老婆は答えた。
「……吸血鬼ノース・ヘラトゥは、森に迷い込んだ木こりに言ったそうです。我は、魔王だ……。倒したければ古代魔法の継承者を連れてこいと……」
――ん? 古代魔法? 魔王? ん? んん? ……なんだぁ~それ?
しかし、やはり周りを見渡しても俺以外の人間は皆、コクコクと頷いているだけでこの場で全く話を理解できていない間抜けは、自分だけだと自覚した。
――て、いやいや……。異世界転移初心者には、むず過ぎるって! こんな設定のオンパレード!
少しだけ焦りを感じた俺は、自分の左隣に座る両手足を拘束された美少女アリナに小声で尋ねてみる事にした。
「……ごっ、ごめん。話が全然分かんないんだけど……古代魔法って何? 魔王って?」
すると、アリナは呆れた顔をして深く溜息をついた後に俺を軽蔑するような目で見てきて言った。
「……はぁ?」
――本当に色々と無知ですいません。
と、俺は心の中で思うのだった。すると、アリナは老婆達の方にチラッと視線を移して一言だけ「ちょっと……」と言うと俺の肩に手を置いて一緒に後ろを向く。そして、2人だけでコソコソと話を始めるのであった。
「……アンタ、それマジで言ってるの?」
「しょうがねぇだろ? 俺は、そう言うのとかが全くない世界に生まれてきたんだから……」
すると、アリナはまたも溜息をついて俺に言った。
「……魔王っていうのは、大昔に悪魔と人間が戦った戦争で悪魔側を率いて戦っていた奴の事。……あっ、悪魔戦争神話については知ってるわね?」
「……ざっくりなら」
すると、アリナは話を続けた。
「……伝説では魔王は最後72人の英雄達との戦いで、60人を虐殺した後、残りの12人の英雄の力の前に敗北したていう風に言われているわ」
「……ほうほう」
「その72人の英雄達が持っていた魔法こそ……古代魔法。上代魔法とも言われているわ……。これは、普通の魔法と違って神が最初に人へ授けた魔法で……どれも現代の魔法とは全く異なるベクトルの……しかも超強力な力を持った魔王を倒すための人類側の切札のような魔法よ」
――へぇ~、なんかカッコいいな! やっと、なんかファンタジーっぽくなってきたじゃん! 俺、今脳内で〇ラクエの音楽流れてるよ~。
と、カッコいい設定の数々に俺が感動しているとアリナは、少し強めの声音で告げた。
「……しかし、さっきも言ったように72あった。そのうちの60は、魔王によって滅ぼされた。上代魔法は、他の魔法と違って使用者が例え死んでも……魔素っていう所謂、魔法の核みたいなものが残っていれば、後世の人間に引き継がれていくものなの……。けど、72のうち60は消滅。残りの12個の上代魔法も……魔王との戦いの後、何千年という年月の間ずっと行方不明となっていたの……」
――へぇ……。壮大。……さっきまで、けん玉とベイゴマで競ってた世界の話とは思えない位壮大だなぁ……。
そんな感想を抱きながら俺は、アリナの最後の言い方が気になったので問いかけてみた。
「……なっていたって言う事は、じゃあ今はその12個の魔法は見つかったのか?」
すると、アリナはくるっと老婆の方を向いて、クスッと笑いだす。俺もそんな彼女に釣られて同じく老婆の方を見てみる。すると、前から年老いた老人たちの強烈な視線が怖いほど向けられていたのが分かった。
「……え?」
再び恐ろしい気分になった俺は、背中をブルっと震わせて老人たちの事を見ていた。すると、老人たちの右側に座る1人の頭の禿げたお爺ちゃんが喋り出した。
「……この御方は、面白い御方じゃのぉ。気づいておらんとは……」
――ん? なんだぁ~? そんなに俺をジロジロ見てきて……おいおい。冗談はよしてくれよな? 爺さん……。
すると、お爺ちゃんの言葉に対して更に今度は左側に座る2人目の長い白髪を後ろで結んだ髪型のお婆ちゃんが喋りだす。
「……ほほほ。まぁ、良いではありませんか。お爺さんや。もしかしたら、魔王を倒してくれるのはこう言う御方の事なのだろうな……」
――え? 待て……。誰も魔王を倒すだなんて言ってなくないか? それとも俺の知らない魔法で……コイツら喋ってんのか?
すると、最後にペチュニアおばさんがさっきまで笑っていた顔をいきなり変えて、改まった表情で口を開いた。
「……行方不明となった12個の古代魔法。そのうち、2つは……この町にある」
「……え?」
――なぁ~んだよ! それを先に言えよ。婆さん……
と、俺がそう言おうとした次の瞬間、ペチュニアおばさんは既に喋り始めていたのだ。
「……しかも、ワシらの目の前にな……」
この瞬間、俺は嫌でも分かってしまった。この老人たちの視線が俺に向けられている事を……。いまだに信じられない事ではあるが……どうやらあの時、ギルドで職務適正なしと言われたあの魔法――けん玉を作るだけの魔法が……伝説の魔法だったようだ。
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――いやぁ……えぇ……。
――To be continued.
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