23rd mission まさかのまさかです!

「……えーっと、ここは……こうか?」


 アリナとサマンサ達と別れてから俺の車のメンテナンス作業は始まった。まぁ、メンテナンスと言っても大掛かりなものではなく、軽い点検をする程度だ。


 前のサマンサとの戦いで隕石の衝撃もあったし、おそらく車の方がかなり傷ついてしまっていると思って俺は、早速作業にとりかかったわけだが、この車が以外にも頑丈だ。



 ――魔法の効果みたいなのもあるのかな? 思ったより傷ついてない……。トランク以外は……。



 俺は、開いたボンネットからチラッと顔を動かして後ろのトランクを覗いた。黒い車のトランクがボッコボコに凹んでいる姿があった。面白いのは、トランク以外の場所は新品同様の傷1つない綺麗な状態を保っているのにそこだけ凹んでいるのだ。



「……不自然でなんか嫌だけど、まぁ治す手段がないからしょうがないか」



 俺は、そんな独り言を言った後にもう一度ボンネットの中を調べてみた。そして、油のチェックなどを全て済ませた俺は、ボンネットを閉めて作業を一度終えた。




「……ふぅ。ほとんど確認程度の事をやっただけだったけど……なんか疲れたな。異世界の車は、現実の車と少しだけ違う所あったし……」



 この車に初めて乗った時に運転の仕方と一緒に点検などについても頭の中に入ってはいた。しかし、一度に様々な事を頭に無理やり入れさせられたおかげで余計に疲れた。おまけに一個一個の点検動作を思い出すたびに膨大な知識の中から選ばなきゃいけないのでそれが、大変過ぎるのだ。





「……ちょっと疲れたし。休むかぁ~」



 俺が、車のすぐ近くで体を休めようと地面に座って村の石でできた道の上で寝転がったその時だった。








「……おい。アンタ」



 声をかけられた。しかも、全く聞き覚えのない誰かに……。






「……ん?」



 俺は疑問に思って声のした方へ顔を向けた。随分と勇ましい男前な声だったが……と思って見てみると、そこには銀の鎧を身に纏い、顔以外の全てが銀色で腰に剣を持った背が高くて痩せた赤髪と白肌が特徴的で、サラサラしたその髪で左目を隠した1人の男が立っていた。





 ――誰だろう……この男?




 俺がそんな事を思っていると赤髪の男は、喋り出した。




「……アンタ、その鉄の塊はなんだ?」


 男が、突然俺達の乗っていた車を指さして来た。異世界人は、まだあまり車を見た事がないというカルデルーポの言葉を思い出した俺は、すぐに答えた。



「……これは、車だよ。これに乗ると馬よりも早く移動する事ができるんだ」



 だが、俺がそう言うと赤髪の男は、ピクッと反応して体と声を震わせながら俺に言ってきた。






「……なるほど。……そうか。やはり、じゃあお前は……」




「ん……?」



 俺は、突然現れたその男の様子が変になった事に危機感を覚えた。男は、言った。



「……お前がやったんだな!」


 すると、その瞬間男は、自分の腰に装着された鞘から剣を引き抜いて一気に俺のいる所へまで走りかかってきた。




「……なっ、なんだぁ!? いきなり何なんだ!」



 男は、俺の所へまでやって来るとその剣を勢いよくブンブン振り回し始める。





「……うわっ! ちょっ! やめろ!」



 俺は、そう言いながら剣をギリギリで避けた。……あっぶねぇ~死ぬかと思った!





 しかし、そんな呑気な事を考えている暇はない。男は更に剣を俺に振って来た。その勢いよく襲い掛かって来る剣さばきに俺は、ただ距離をとって避ける事しかできない。




「……なんだよ! いきなり襲い掛かってくんなよ!」



 俺は、必死にそう言うが男の方はまともに聞いちゃくれない。




「黙れ! お前のせいで……この村は……!」




「村……!?」



 その言葉に何かの意味を悟った俺だったが、男の剣さばきは早い。俺に考える余裕なんて与えようとしなかった。



 ――くっそ! まずは、この剣を何とかしねぇとダメか!




 そう思って俺は、剣を避けながら地面をチラチラ見た。何か岩なんかが落ちていると良いが……。俺の目に入ってくるのは、石畳。それだけだ。





 ――この石を使うしかないか……!





 そう思って俺が、男の左から来る剣さばきを避ける時に体を横転させる。その時に床に触れた方の手に魔力を込めて魔法を発動させる。……俺の手に石が触れたその瞬間、手の甲に浮かび上がった魔法陣が大きくなって地面に埋め込まれた石が形を変え始めた。



「……生まれろ! 俺のけん玉!」




 そうして、石は形を変えていき……光の中でけん玉へと姿を変える。




「なっ!? それは……!」



 男が僕の手に現れたけん玉を見て驚いた顔をしていたので、得意顔で答えた。




「……けん玉だ。まぁ、俺の故郷で子供の遊び道具として使われてたもんだな」




 すると、男は剣を握りしめて言った。



「……遊び道具だと? ふざけてるのか! 貴様ァ!」




 そう言って男は、剣を振り上げて俺の下に斬りかかって来ようとした。しかし、、その動きを俺は逃さない。狙いを定めて手に持ったけん玉を飛ばす……!






「……ボール・スラスト!」



 けん玉の紐で吊るされている玉の部分を敵目掛けて投げ込む技。俺は、この技によって岩石の玉を男の剣を持っている手にぶつける事に成功。これによって男は、剣を離してしまい、武器をなくしてしまうのであった。





「……しまった!」



 驚いている男に俺は更に煽るように言った。




「……遊び道具だからって舐めちゃあいかんぜ? 俺のけん玉は、隕石をぶっ倒した程だからな!」





「ちっ……!」



 舌打ちをする男。彼は、とても恐ろしい眼差しで俺の事を見てきた。そして、彼の視線が俺の手に持っているけん玉へ移ったその瞬間、彼は突然さっきまでの怒りに満ちた顔から急に笑い出した。




「……ふふふ」





「!?」



 その突然の行動に意味が分からず、俺は固まってしまう。しかし、男は更に笑い続けた。









「……なっ、なんだぁ? 何がおかしい! 俺のけん玉は、確かにテメェの武器を封じた! これで、戦う手段はお前にはねぇはずだ!」




 しかし、それこそがフラグでもあった。今度は男が得意顔で俺に言ってきた。



「……武器ぃ? 封じた? ふっ、あんな剣は、ただの……前座に過ぎない。俺の真の実力をお前はまだ知らないようだなぁ……」




 ――なっ、なんだぁ!? コイツ、突然自信たっぷりの様子になりやがって!





 俺が、そんな事を思っていると男は言ってきた。




「……良いだろう! これでお前を始末できるのなら見せてやろう。俺の本気を……」




 そう言うと男は、自分の銀色の鎧の右手の部分に触れて、手の甲に魔法陣を出現させる。






 ――って、待て! あの魔法陣、どっかで見た事あるぞ!





 更に男は、全身に流れる魔力を自分の手の中に集め出した。同じ魔法を使う者として何となく彼の魔力の流れが分かる気がした。男は、魔力を手の中に流し込むと大きな声で喋り出した。





「……我が右の手を守る鋼を闇を穿つ剣に変えよ。全てを壊すその一撃を……目の前の悪に知らしめろ! ……顕現せよ!」




 刹那、彼が魔法陣の浮かび上がっている方の手で触れていた銀色の鎧の右手の部分が眩い光に包まれて姿形を変えだす。





「……おい! 待て! それってまさか……!」




 俺は、この一連の動作に見覚えがありまくっていた。驚く俺だったが、男は気にする事なく詠唱を続けた。











「……ベイゴ魔法! 闇を切り裂く光となれ!」





 その瞬間、男の銀の鎧が変化して鋼でできた長い糸と鋼でできたベイゴマが1つ完成していた。俺は、男のその魔法に驚きを隠せないでいた。

















「……ベイゴ魔法、だと!?」




























 ――To be continued.

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