17th mission ベースボールブレイク!

「ふざけるな! おもちゃで隕石に勝てると思うなよ!」



 黒服の魔女サマンサは、黒い空高く上げた杖を勢いよく振り下ろし、俺達の立っている場所のすぐ傍まで来ていながら動きを止められていた隕石達を一斉に落としていった。


 その数なんと……7つ。さっき俺が両腕に受けた隕石の数の倍はあった。俺は、そんな石達が雹のように降りかかっていく様を見ていたが、しかし今の俺はもう……逃げたりしない。この手に握りしめたけん玉で……。






「……勝つ!」




 俺は、自分の元へ降りかかって来た少し大きめの石くらいの大きさの隕石を睨みつけた。そして、棒に刺さったままだったけん玉の玉を棒から外してぶらんと糸でつるされた状態にする。更にそのままけん玉を持っている右手を前後に大きく回す。……これにより、糸でつるされた玉は、勢いよくぶんぶん……と回り、徐々にその勢いとスピードは増して行くのだった。






 ――そして、けん玉の回転が最高潮に達した所で俺は、その玉をぶつかってくる隕石に向かって当てに行った。






「……どりゃあぁぁぁぁ!」



 俺の渾身の一撃が隕石に炸裂する。――刹那、けん玉の硬い玉が飛んできた岩石に当たり、その当たった場所にひびが入る。瞬く間にひびは広がっていき、そして少しすると隕石は真っ二つに割れた……!







「えっ、えぇ!?」


 この様子を見ていた黒服の魔女サマンサは、俺を見て驚いていた。しかし、当の俺はしてやったりの表情を浮かべて彼女にこう言ってやった。




「……このけん玉をただの遊び道具だと思ってもらっちゃ困る。何と言ってもこのけん玉は、この車のトランクから作ったけん玉だ。……鉄でできているんだ。だから、普通のけん玉に比べて硬いし……玉の部分は鉄球だから当たればかなりの威力になるのさ!」





 俺が、そう言い切ると彼女は、苦い顔を浮かべる。そして、更に杖で残りの6発の隕石を操作して俺の所へ振らせていった。









 ――だが……。




「あめぇぜ! この鉄球を食らいな!」




 俺は、そう高らかに宣言すると……さっきと同じ方向から降りかかって来た2発の隕石に鉄球を連続で当ててぶっ壊しまくった。俺の周りに砕けた岩の破片がボロボロになって落ちていく……。サマンサの表情がより一層緊張感を増して、杖を更に空高く上げてグルグルと動かして解き放った。





「……なっ!? これは!」



 俺は、すぐに彼女が何をしてきたのか理解した。さっきまで同じ方向からしか隕石を降らせてこなかったのが、今度は前と後ろでそれぞれ逆の方向から俺の元へ隕石を降らせて来たのだ……!








 ――今までみたいに鉄球をただぶつけるだけじゃ……後ろから来る隕石を止める事はできない……。どうする……。




 俺は、考えた。……この状況を打破できる何かがあるはずだ……。石よりも鉄の方が硬いからな。当てりゃいいだけの話なんだ……。ほぼ同時に2方向からやって来る隕石をぶっ壊す方法……。鉄球をほぼ同時に当てる方法……。



















 …………すると、俺の頭の中に1つの方法が浮かんでくる。それは、小学校の頃何回も練習したとある技。それを使えば、もしかしたら……。




 俺はそう思ってすぐに技を放つための態勢をとった。――両足を開いて、2つの隕石が左右に来るように横を向く。そしてけん玉の吊るされた玉の部分を振り回して、最初に右側から近づいてくる隕石に向かって鉄球をお見舞いした。




 岩と鉄がぶつかり合い、強烈な打撃音と共に鉄の塊が岩を砕く! そして、砕き終えた鉄の玉は、すぐに下へ落下していく……。




 そのタイミングで、俺はすぐにけん玉の大皿の部分で玉をキャッチする。――しかし、そんなモタモタ動く俺を見てサマンサは、バカにするような笑い声と共に俺に言ってきた。





「そんなモタモタしていたら……すぐにやって来る左の隕石に激突するよ~? もう今までみたいに鉄球をぶつける余裕もないでしょう? ほ~ら、もうだいぶ……隕石は近づいて来ているのだから……」




 彼女の言う通り、隕石はもうすぐそこ……あと少しで当たるくらいの距離まで近づいて来ていた。






「……大我…………」




 サマンサの近くで地面に座った状態で見ていたアリナの心配するような声が聞こえてくる。……しかし。






「……いやいや、これこそが作戦なんだなぁ…………」












 ――その瞬間、俺は大皿の上にのった鉄球を再び皿から落として糸でぶらんと吊るされた状態に一瞬だけ戻す。……しかし、戻ってすぐに俺はその鉄球を今度は、持ち手の所にある中皿の方へと飛ばす。





「……バカか! そっちは、右だぞ! そっち側に鉄球を飛ばしても隕石はないんだよ!」




 サマンサがそう言うが、しかしそんな事は当然俺にも分かっている。俺は、言った。





「……分かってねぇな~。これだから、遊びを知らない奴ってのは……ダメなんだ」



「あぁ?」



 すぐにサマンサが怒った声で反応してきた。俺は答えると同時に技を始める。




「……見せてやるぜ! これが、俺のケンダ魔法だ!」




 ――刹那、俺はけん玉を持ち換えて、右側に飛ばしたはずの鉄球を中皿のある持ち手の部分を使って打つ。……それは、まるでバットでボールを打つ野球のように。俺は、右側へ来ていた鉄球を持ち手で打って左へ回転させる。






「……何!?」



 それを見ていたサマンサは、びっくりした顔を浮かべていた。そして、更に追い打ちと言わんばかりに左側に飛ばされた鉄球がけん玉の周りを一回転。その一回転する流れで下から上へと鉄球が……左側から接近してくる隕石にぶち当たる!





 隕石は、たちまちひびが入り、真っ二つに砕け散る……。鉄球は、そのまま中皿の方へやって来て……そして皿の上に乗っかるのだった。




「なっ、なんだ……あれは!?」



 サマンサがそう言うと……俺は、得意げに笑って答えた。




「……ベースボールって技さ! 小学校の頃、散々練習してきたからな。……うまくいったぜ! 今から名前を改めて……ベースボールブレイクにするか!」





 サマンサは、俺の技を見て驚きつつ……悔しそうに言った。







「この男……かなり、やるわね…………」




 そんな事を言う彼女に俺は、笑い返した。……正直、まだ怖い気持ちはあったがしかし……今は笑っていないとメンタルを保つ事が難しそうだから。仕方なく余裕のあるふりをする事にした。










 ――やがて、俺とサマンサはお互いに睨み合うようになった。……それが、第2ラウンドの始まりを告げるのであった。





















  ――To be continued.

 


 



 

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