16th mission 生まれろ! 俺のけん玉!
──ここで戦う意味なんて、正直ないのかもしれない。でも、そうしないと俺は前に進めない気がした。自分の覚悟を誰かにぶつけたい。ぶつけて発散させたい……。完全なる俺のエゴだけど、でもそうやって自分は前に進んでいける気がするんだ。
俺は、目の前でアリナを抱き抱える魔女を見つめた。彼女も何処かイライラした様子で発散させた気だった。おそらくアリナと一緒にいた俺に少なからず怒りを宿している……。
──このまま引き下がって現実から逃げ続けるくらいなら……!
俺は、サマンサを睨みつけた。そしてそれと同時に彼女もアリナの事を下ろす。
「え? ちょっ!? 2人とも?」
アリナには今の状況が全く理解できない様子だったが、しかし……そんな事は今の俺達には関係ない。
──倒す……!
サマンサと俺の心が初めて一致した。俺達は、それぞれ戦闘態勢に入る。
サマンサは、杖を上に掲げて隕石を動かす準備を……。そして、俺は。
──使うっきゃねぇな。この俺の魔法を……。正直、ぶっつけ本番でしかも、あんまし大した魔法じゃないから心配も多いけど……。
俺は、車のトランクの辺りを撫でるように触れていながら魔法を使おうとする。……どうやって魔法を起動させるかは、最初のギルドで手をかざした時に何となく理解した。自分の中に流れているこの……この血液のようなもの。これを感じ取り、そして……脳内でイメージする。
――俺は、頭の中でけん玉をイメージして魔力の流れを感じ取りながらそれを自分が今触れている車のトランクに送り込む。そして……。
「……発動しろ! ケンダ魔法! 俺のイメージ通りに……生まれ変われ!」
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俺のトランクの開口に触れている手の甲に魔法陣のようなものが出現する。そこに刻まれている文字は、おそらく異世界の言葉。俺には読めない。しかし、何となくそこに何が書かれているのかを俺は理解できた。
――来る……!
そう思った途端に俺が触れていたトランクの開口は、たちまち眩い光に包まれていく。そのあまりにも眩しい光に俺は、つい目を瞑ってしまったが……しかし、触っている感触で分かる。
トランクの開口が、粘土のように形を変えていっている事を……。そして、握った事のあるあの感触のものが作られて行っていた。先は、どんどん尖っていき……そしてその尖った先端に丸い球体が作られていき、刺し込まれる。また、左右に大きなラッパのような形をした器が形成されていく……。
また、車のトランクの開口で作った影響か……金属でできておりかなりの硬さを誇っている。
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しばらくすると、光は止んでその光の中からけん玉が出現。俺は、それを見て覚悟の眼差しを魔女に向けるが、当のサマンサはキョトンとした目で俺のけん玉を見ていた。
「……なっ、なんだ? その……意味の分からないものは……?」
彼女の問いかけに俺は、優しく答えた。
「……けん玉っていうのさ。俺の国で昔から愛され続けているおもちゃだな!」
すると、サマンサは最初こそ信じられないと言った顔で固まっていたが次第に笑い始めて……彼女は言った。
「……おいおい! このアタシ相手にそんなおもちゃで対抗するというのか? 貴様、アタシを舐めているのか?」
だが、俺は至って真剣だ。
「……舐めてない。これが、今の俺にできる全力だ! 行くぜ! 隕石野郎!」
かくして、俺の異世界での初戦闘が始まるのであった――!
――To be continued.
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