6th mission 異世界に車とは、何事ですか!?
異世界にやって来てしまった俺こと進藤大我は、職を求めてギルドにやって来た。しかし、ギルドのお姉さんからは職務適正が0と判断され、無能扱い。こっちに来ても俺はニートとして生きるしかなくなってしまいそうだった……。
しかし、そんな時に俺を助けてくれたのがエルビラお姉さん。彼女は、俺にその……一目惚れしていたらしくって、俺の為に仕事を紹介してくれた。それは、どんな職務適正のない人でもギルドの申請なしでやる事のできる仕事らしいのだけど……内容はなんと、ヤバそうな石を運ぶというものだった……。
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「禁断の石を俺に運べって……そんなの…………」
――絶対に危ないに決まっている。話を聞いている限り、明らかにヤバそうなものだ。そんなの俺なんかに……。
俺が緊張のあまり生唾を飲み込んで話を聞いているとパパは言った。
「……やってくれるか?」
それまでと少し違う覚悟の決まった顔だった。俺は、突然の真剣な顔に少しだけ圧を感じて押された。
――どっ、どうしよう……。
迷っていた俺は、勇気を振り絞ってパパに尋ねてみる。
「その……仕事って、結構大変ですよね?」
パパは、変わらず真剣な顔で言った。
「……それは何とも言えないが、まぁ安心しろ。安全は保障されている。きっと何とかなるはずだ……」
――何とかって……。
俺は、どんな安全が保障されているのかをパパに聞こうとした。しかし、それよりも前にパパは口を開いた。
「……やってくれるのか?」
俺は、パパのその様子を見てもう一度生唾を飲み込んだ。
「……」
――危険な仕事は嫌だ。でも、ここで断ったら他に行く当てなんて……。
俺は迷いまくっていた。決して口には出さなかったが、内心はとても怯えていた。すると、そんな時に俺の隣で立ったまま俺とパパの事を見守っていたエルビラお姉さんが、俺の事を見て言ってきた。
「……良いの? ここで断ったら貴方、本当に仕事なくすわよ?」
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そして、覚悟を決めて答えた。
「……はい。分かりました。安全が保障されているのならば……やりましょう」
こうして、俺はこの日からパパの元で働く事になったわけだ。……しかし、この時の俺は、まだ何も知らなかった。この人達の正体も、そしてこの仕事の恐ろしさも……。
*
それから、すぐに俺は仕事の準備をする事になった。パパに連れられて家から出て、町の外れのとある場所にやって来た俺は、そこで衝撃を受けた。
「……え? なんで、この町にこんなものが…………」
そこには、この中世ヨーロッパの街並みに全く似合わないレンガで作られた大きなピザ窯のような形をした建物――ガレージが、存在していた。
――ガレージ。そう、車などを格納するあのガレージだ。シャッターのようなものがレンガで囲われた建物に取り付けられている。もう完全にこれは、この建物の中に車が入っているとしか思えなかった……。
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しばらくして、俺の隣に立つパパが手を前に突き出して掌の先から魔法陣を出現させ、魔法を発動させる。
「……開け!」
すると、ガレージのシャッターらしきものが、自動で開いて建物の中が露出する。
「えっ!? えぇ!? まっ、マジか……」
中には、しっかりと黒い車が存在していた。しかも、その車の見た目は何処かベンツに似ていた。
――なんだ? この急展開は……!?
俺が、内心でそんな事を思っていると隣に立っているパパが口を開いた。
「ははは……驚くのも無理もない。なんせ、まだ世の中にそこまで出回っちゃいない
からな。一部の金持ちとか都市部に住む人々しかまだ持っていない。魔法文明の発展によって完成した代物だ。最近になって都会の方で出来上がった魔道式移動型金属車。通称――
俺は、解説を聞いてもまだやはり驚きを隠せない様子でいた。
――なんだろう……。俺の中の異世界っていうののイメージが今、一気に崩れた気がする。なんでだろう……。
俺は、そんな事を思いながら車を隅々まで見ていったが、やはり現実の世界でも走っていたあれとみれば見る程よ~く似ていた。強いて似ていない所を上げるなら操縦席のゴチャゴチャ感がこっちには全然なかった。本当にハンドルとアクセル、ブレーキ? とレバー、キーしかない。シンプルな感じだ。
俺は思った。
――あぁ、結局異世界になろうと現実世界になろうと人ってのは、だいたい似たようなものを作り始めるんだなぁ……。うーん。儚いなぁ……。
俺は、そんな事を思いながらもパパの指示で車に乗りこみ、使い方を教えてもらった。
「……良いか? 別に難しい操作は、1つもない。それに、そのハンドルを握ったら勝手に体がその時の状況に応じて動くように魔法がかけられているから……安心してくれ。走る道も分かるな? まぁ、基本的には馬車が通る道を走ればいいだけだ。詳しい事は、その場で魔法が答えてくれるさ。それと……これを持ってくれ」
パパは、ポケットから何かを取り出して俺に渡して来た。俺が、何かを尋ねるとパパは答えた。
「お守りだ。俺達ファミリーのな……。良いな? 絶対に他の人に自分が何を運んでいるのかを言ってはダメだ。これは、極秘の仕事なんだ。良いな?」
そう言うとパパは、俺に紫色に光るネックレスを渡して来た。……俺は、すぐにそれを首にかけて……ハンドルを握る。すると、その瞬間に頭の中に車のあらゆる使い方が脳内に流れ込んで来た。
――うわっ! すげぇ……もう運転できるぞ! これっ! さっすが魔法の世界! 一概に魔法と言い切れるか不安な所あるけど……。
そして、早速俺は車のエンジンをかけるべく魔力解放の鍵を回す。――すると、その途端にハンドルを握っていた俺の手から魔力が吸われていき、車の方へとエネルギーが転送される。そして、ある程度まで魔力が吸われ切った所で魔道車のエンジンがかかる。
この時のエンジンがかかった時の音もしっかりと車の音だった事がやはり俺にとってショッキングだった……。
――あぁ、魔法……魔法要素ってなんだぁ?
そんなツッコミを心の中で入れながら俺は、ハンドルをギュッと握りしめる。そして、発進しようとする直前で、パパが俺に言った。
「……良いか? お前が運ぶべきものは、この魔道車の後ろに積んでおいた。1ヶ月だぞ? 一か月以内に……ここだ。ここまで向かうのだぞ。念のため、この地図を渡しておこう。その地図は指でトンっと叩くと勝手に展開されて現在地と目的地、道を示してくれる」
パパは、そう言うと俺に持っていた紙の地図を渡してきてくれた。そして、更にもう1つ俺に言った。
「……それからもう1つ。もしも、万が一の場合はこの魔道車に内蔵されているテレパシーの魔法器を使え。それで、遠くにいてもワシらと話ができる。何かあった時に使うのだぞ!」
「分かりました……」
俺は、そう返事を返すとそのまま車のアクセルを踏もうとした。すると、その直前でエルビラお姉さんがパパの隣に現れて僕に言ってきた。
「……頑張って来てね! 大我!」
彼女は、元気にそう言うと手を振ってくれた。
「うん。ありがとう! エルビラさん! その……帰って来たら今度は……一緒にデートしよう!」
エルビラは、嬉しそうに笑顔で答えた。
「ええ! 分かったわ! じゃあ行ってらっしゃい!」
俺は、彼女の「行ってらっしゃい」を聞いた瞬間にアクセルを踏んで一気にスピードを上げて走り出す。
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――瞬く間に車に乗った俺は、パパやエルビラお姉さん達のいる所から離れて行った。こうして、俺の旅が始まる事となったのだった……。しかし、これこそが危険な冒険の始まりでもあった……。
――To be continued.
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