5th mission 愛するあなたの為にも俺、運びます!
「……良いお仕事教えてあげようか? 変な書類なんて一つもいらない。誰でも出来るお仕事を……」
エルビラのお姉さんが、俺にそう言う。普通だったらこんな事に対してすぐに「うん!」だなんて言葉を返してはいけないのかもしれない。
この中世ヨーロッパ風の世界に存在するのかは分からないが、俺のいた世界ではこういう言葉に簡単に連れてかれてしまう奴は騙されちまうんだ。
それは、頭の中で少しだけ理解できた。しかし、俺にとって今の状況は最悪。働き口は、0だ。探そうにもギルドであんな事を言われてしまったら……もう無理だろう。脳内にあの時、周りの人々に言われた事を思い出す。
「仕事適性なし」「人間力0」「……引く」こんなに傷ついたのは、学生の頃ぶりだ。
――やっぱり、俺が外に出るとこうなんだ。……外に出て頑張ろうと決心する時は、いつもこうだ……。
俺は、そんな事を考え出して頭の中が次第にごっちゃごちゃになった。だからか、エルビラお姉さんの提案を前に手が伸びかかったが……引っ込めてしまう。そんな事の繰り返しだった。
――本当に誰でもできるのだろうか。俺なんかでも……仕事ができるだろうか? というか、騙されたりしてないだろうか? エルビラお姉さんは、素敵な方だが……どうしてこんな……俺にばかり優しいのだろうか……?
俺は、伸ばしかけていた手を自分の胸の辺りまで完全に引っ込めた後、言った。
「……そのエッ、エル……エルビラさん……ひっ、1つだけ聞いても良いですか?」
すると、彼女はにっこり笑って答えた。
「……えぇ。良いわよ。お仕事の質問でも何でも答えるわ」
僕は、決意を固めて言った。
「……あのっ! エルビラさんは、どうしてそんな! 僕に優しくしてくれるんですか!? どうして……僕なんかのために…………エルビラさんは……」
すると、彼女は少しの間喋らなかった。口が完全に閉ざされていたのだ。しかし、自分の顎に人差し指を置いて考え出し、それから彼女はさっきまでと違い真っ直ぐ俺を見てくれているのではなく、チラッ……チラッと俺の目を見ては引っ込めるようになった。
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そして、少ししてから彼女は顔を自分の手で隠して恥ずかしそうに頬っぺたを赤面させ、横目でチラチラ俺の事を見てきながら少し緊張した声音で言ってきた。
「……そっ、その……だって……だって、それは……。その……初めてあなたを見た時からその…………」
しかし、彼女はしっかり最後まで言わなかった。
「え?」
俺は、ポカンとしていた。何となく、もしかして? とか思ったが、しかし自分の心の中で「いやいや違う!」と否定が入る。そんな葛藤をしているとついにエルビラさんは、俺に言った。
「もう! だから……貴方を最初見た時から気になってたのよ! かっこいいなって思ってたのよ!」
彼女が、そう言うと……俺は固まった。
――いや、え? これってもしかして……? ん? 告白?
俺は固まった。しかし、段々と顔が熱くなってきて俺は、あたふたと緊張した様子で喋り出した。
「……ふぇ!? えっ? その……えっ!?」
すると、すかさず彼女はチラチラ俺の事を見ながら言ってきた。
「……だから、あなたにだけ…………なんだから。こんな事教えるのは……貴方にだけ、良いお仕事を教えてあげたいと思ったからアタシは、言ったのよ!」
この瞬間、俺は気づいた。
――そうだったのか。お姉さんは、ずっと僕のためを思ってくれて……。確かに異世界に来てからの俺の見た目は、カッコいい部類……だと思う。だから、この人はあの時声をかけてくれて……それで、今もこうして助けてくれようとしている。……こんなの男として断る理由なんて…………。
俺は、答えた。
「ごめんなさい! 俺、正直エルビラさんの事疑ってました! その……ありがとうございます! 仕事は、受けます。……それと、どうか俺と付き合ってください! お願いします!」
俺が、そう答えた瞬間にエルビラお姉さんは、嬉しそうに笑い、そして泣き始めた。
「……え?」
俺が疑問に思っていると彼女は、俺の胸に抱き着いて来て泣きながら言ってくれた。
「……嬉しいの! こんな……事言ってくれて……本当に嬉しいの! お仕事、頑張ってね!」
俺は、そんな彼女の言葉を聞いていくうちにコクコク……と頷くようになり、そのうち抱き着いて来た彼女の頭を撫でるようになった。そして、答えた。
「……はい。お仕事、頑張ります。アナタの為にも……」
「うん……」
この時、一瞬だけエルビラさんの泣き声がピタッと止んだ事に俺は、気づいていなかった。
しばらくして、俺と彼女は離れた。そしてエルビラさんに連れてかれて、そのお仕事のマスターを名乗る人の者に行く事となった……。
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――エルビラさんに連れてかれて俺達が辿り着いたのは、町の住宅街のような場所。その場所の一番端っこに建っている石とレンガでできた家。一見すると普通の家にしか見えなかったそここそ……エルビラさんの言うマスターのいる場所らしい。彼女に連れられて俺達は、家の中に入って行く。
ドアを開けるとすぐそこには、キッチンとテーブルが見えてそのテーブルの椅子に1人の男が座っていた。見た目は、髪の毛をオールバックにしており、目元が暗い。格好は普通に農家の男みたいな作業着を着ている。また男は、お酒の瓶のようなものに入っている葡萄酒のような色をした謎の飲み物をグラスに注いで飲んでいた。
そして、この男の周りには男の奥さんらしき人物が台所で料理を作っており、そして彼らのいる所と反対側の少し離れた所ではこの2人の子供達らしき小さい子2人が、キャッキャッと騒ぎながら遊んでいた。
そんな子供のはしゃぎ声の聞こえる家の中でテーブルに座るオールバック男が俺達に気づき、こっちを見て来た。彼は俺の隣にいるエルビラさんに声をかけた。
「……エルビラ、その男は?」
「……大我っていうの! 例の仕事を手伝ってくれる新しいパートナーよ!」
彼女がそう言うと男の方はさっきまでの渋い顔をやめて俺の事を見てきた。そして、ニッコリ笑って言った。
「おぉ! そうかいそうかい。君が……。そうだったのか。よろしく。私は、カルデルーポ」
俺もすかさず返した。
「あぁ、初めまして。大我と申します。よろしくお願いします。カルデルーポさん」
「ははは。カルデルーポさんは、やめたまえ。大我くん。私達の職場はね、働いている者全てが家族そのものなんだ。……ファミリーだよ? 分かるだろう? 君は、そう……私のファミリーになりたいと言ってきたんだ。私も今、君のそのやる気に満ちた目を見てすぐに理解したさ、もう君は儂たちファミリーの仲間。呼び方は、パパで良い」
そう言い終えるとカルデルーポさんは、無言でニコニコ笑いながら俺が「パパ」と言うのを待ってきた。言うのが少し恥ずかしかった俺は、躊躇いを見せるがしかし口を開いた。
「えーっと……ぱっ、パパ…………」
「うむ。そうだな」
パパは納得してくれた。すると、少しして彼は俺達をテーブルに案内し、早速仕事の話を始めた。
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「……良いかね? 儂たちは、運ぶ仕事をしている。町から町へ。何でも運ぶ。まず、これをよ~く覚えておきたまえ」
俺は、物凄く素早いスピードでコクコク頷いた。すると、パパは続けて言ってくれた。
「……君に今回頼みたい仕事は、ここからかなり離れた所にあるこの国――スティバリーの港。シタデラクア港。ここへとあるものを運んでほしいのだ」
「とあるものって……」
俺は、素直に疑問を口にした。すると、パパはとてもニコニコした顔で答えた。
「良い質問だ。……ここへ運んでほしいものは、呪われた秘宝だ」
「え……?」
俺がそう聞き返すとパパは、答えた。
「……昔の神話なのだがな。この国では、昔大量の悪魔と人が戦った歴史がある。人は、神から天使の力。通称、魔法を授かって悪魔と戦い、見事勝利した。神は、全ての人間に悪魔を殺す事のできる魔法を授けたはずなのだが……しかし1人だけ例外があったのじゃ。その者は、人を癒す力があった。しかし、ソイツの癒す力はあまりにも強すぎてな。悪魔の肉体ですら直してしまうと言う事が分かった。以降、神はその人間の力を封じ込め、石の中に人間そのものを封印させた。
「……」
俺は、その壮大なスケールの話を聞いて声が出なかった。すると、パパが口を開いた。
「……ちなみに、目覚めさせるには選ばれしものの口づけが必要らしい。……まぁ、そんな事はどうでも良いか。……分かったか? 君に運んでほしいものは、その禁断の石」
そう言うとパパは、魔法陣を出現させてその中から何かを取り出し、それをテーブルの上に置いて見せて来た。
「……プロイビート・ストーンをここから遠く離れた港まで1人で運んで行って欲しいのだ!」
俺は、パパのその言葉を聞いてただ固まっていた。そして、やっと動いた口を開いて言った。
「……禁断の石を俺が……運ぶだって!?」
――To be continued.
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