4th mission 悲しい時は、お姉さんに限る
「タイガ様に最適性な仕事はありませんでした。よって、今回のお仕事の申し込み手続きは無しという事に……」
「そっ、そんなぁ! そんなのあんまりですよッ! 僕、これからどうやって生きていけばいいんですか!? お願いしますよ! 力仕事でも警備員でも……スーパーの店員でも……何でも良いんです! 何か、何か仕事を!」
しかし、俺の必死の懇願にも受付のお姉さんは首を縦に振ってはくれない。彼女は言った。
「……申し訳ございません。力仕事をするにも体力アップや筋力増強の魔法を有するので……貴族の警備の仕事も剣や武術に特化した魔法を有していないと……仕事を与える事は認められていなくて……」
俺の体からすっぽりと力が抜ける。受付の前で立ったまま俺は、机の上に拳を握りしめた状態で置いていたその手から力が抜けていき、次第にぶらんっと手を下げた。視線は、目の前に美しい受付嬢がいるにも関わらず下を向いて、彼女からわざと目を逸らしている。
──こんな現実を……受け止めたくない。
「おい。見ろよ。あそこにいる見ない顔の奴、アイツ仕事適性なしだってよ?」
「えぇ~!? マジィ? 仕事なしじゃん! 一生、何もしないで生きる人間力0の奴とかアタシ、絶対無理なんですけど~」
「マジ、ないわ~」
ギルドのあちこちから俺を嘲笑う見知らぬ誰かの声がする。おそらく、この町の住人だろう。男1人と女2人の声が聞こえて来て、僕の心をエグった。
しばらくして、俺はこの後受付のお姉さんのいる場所からトボトボと歩き去った。
脳内で就職活動をしていた頃の映像がフラッシュバックする。
──書類を出しても落とされ……。
──やっと、面接に行けたと思っても落とされ……。
──最終選考で手応えがあったと思っても落とされ……。
──ならば、せめてフリーターで一年何とかしようと、バイトを増やすために面接に行ったけども、落とされた……。
大人達は、みんな俺を必要としていない。有名な誰かが言っていた。
「この世には、お前の上位互換はいくらでもいる」
国や社会は、働けて当然。あれができて当然だ。これを知っていて当然と俺に言う。俺の親も先生も友達でさえもそう言ってきた。
──なのに俺は、その当然ができない。いつもいつも……。
どうして、別の世界へ送られたのだろう。こんな所へ来てまで俺に生きろと神は言いたいのか? 俺の前世はそこまで悪い事をしたのか? 永遠に苦しめと……そう言いたいのか?
俺は、絶望のままギルドから出て行った。もう何もかもどうでも良い。あの森で眠り続けている方が100倍ましだ。あの初めてこの世界に来た時いた森。
──そこに戻ろう……。
そうやって俺は、ギルドのウエスタンドアを潜り、外に出ると真っ直ぐ入口の方へ体を向けた。すると、そんな俺の耳に聞き覚えのある女の声が聞こえて来た。
「あら? 大我……どうしたの? 何かあった?」
その優しくて温かみを感じる女性の声を俺は、知っている。振り返ってみるとそこには白いドレスを着た左右の目が別々の色をしたオッドアイの女性が立っていた。彼女は、俺の顔を覗き込むような心配する顔をしてこっちを見てきた。彼女の豊満な胸と谷間がチラッと見える。
しかし、そんな事に今の俺は、ドキッともしなかった。俺は、小さい声で言った。
「……エルビラ…………さん?」
すると、彼女は名前を呼ばれて嬉しいのか、ニコッと微笑んだ後に返事を返してくれた。
「……うん。そうだよ。……何かあったの? 私で良ければ相談に乗るよ!」
彼女は、優しくそう言ってくれた。俺は、そんな彼女に少しだけ感動して涙が出そうになった。しかし、ぐっと瞳の奥から溢れ出そうな涙の粒をグッと抑えて俺は、話を始めた。
「実は――」
そうして俺は、さっきあった出来事を全て丁寧に話した。ギルドから歩きながらさっきパンをくれたあの噴水のある場所まで戻って来ていた俺達は、そこの広場にあるベンチに座っていた。
エルビラお姉さんは、話を聞き終えると「……うんうん。辛かったねぇ~」と何度も深く頭を上下に振って俺の話を黙って聞いてくれた。
俺にとっては、それだけでも十分に嬉しかった。こんな自分の話を聞いてくれる。それだけで心の荷が軽くなったような感覚だ。
――俺は言った。
「……その、話を聞いてくれてありがとうございます。色々と迷惑をかけました。その……それじゃあ僕は、この辺で……」
そう言って俺は、彼女の傍を離れようとした。本当だったらこんな自分勝手にいなくなろうとするなんて話を聞いてくれた人に失礼な事かもしれない。しかし、この時の俺は、そんな事を考える余裕なんてなかったし、ただ辛くて仕方なかったので、このまま去る以外にないと思っていた。それに何より目の前にいるこの女性は今日出会ったばかりのしかも……女性だ。俺みたいな男の話なんて……。
とにかく俺は……俺の身体は、動いてしまった。その場から離れようと足があの森の方へと向かって行きそうになった。
――しかし、その時だった。
「待って!」
エルビラさんが、俺の右手の服の袖をギュッと握ってきた。彼女は、物凄く強い力で俺の服の袖を掴むとそれを離そうとしなかった。そして、俺が彼女の方を振り返ってみると彼女は、俺の目を見て言ってきた。
「……そんなに辛そうな顔して。まだ、何かあるんでしょう? 全部私にぶちまけちゃいなよ。ちゃんと聞いといてあげるから」
彼女は、俺にそう言ってきた。俺は、心の中ではありがたいなぁと思っていたし、このままお言葉に甘えて、溜めていたものを吐き出してしまおうと思っていた。しかし……それでも、体が自分の言う事を聞かない。
女性が相手という事で緊張しているのと初対面の人と言う事で更に緊張している事。それらが意味の分からない位ごちゃ混ぜに絡み合って俺の口から意志と真逆の言葉が漏れる。
「……いっいや、良いですって! 平気ですって! 僕に構わないでください! 僕の問題ですから……。ほっといてください。良いんです。……どうせ、僕なんて…………」
すると、俺のその言葉に対してお姉さんは、怒った顔をして俺の頬っぺたを思いっきりぶってきた。
「……え?」
しばらく、ポカンとしていた俺だったがそこで彼女が言ってきた。
「……ほっとけるわけないでしょう! 目の前で困っている人がいるのに! ほっとく事なんてできないよ!」
彼女は、とても真剣な顔でそう言っていた。この言葉が、俺の心の中に響いて来た。……しばらく下を向いたままの俺は、抑えられなくなった自分の気持ちに正直になった。
そして、とうとう目から雫を一滴、二滴……と零し始め…………。
「うっ、ううううぅぅぅ……俺、おれずっと…………ずっと辛かったんです。辛かったよぉぉぉぉぉぉぉ」
盛大に泣き叫んだ。エルビラお姉さんは、そんな僕の事を抱きしめてくれて優しく頭を撫でてくれた。そして、耳元でこう囁く。
「よしよし……辛かったねぇ。もう平気だからねぇ……」
彼女は、そう言って何十分もの間、俺を抱きしめていてくれたのであった……。
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それから俺の涙も収まり、だいぶ落ち着いてきた頃にお姉さんは俺の体を自分の身体から離して、再び2人で並んでベンチに座りながら空在を眺めている時に彼女はポツン……と、降り始めた雨のように言葉を口にした。
「それで、これから先……あてはあるの?」
俺は、彼女のその言葉には当然首を横に振って否定した。けど、自分の口から「いや、ない」とは声が出なかった。そんな時、隣に座るエルビラお姉さんが「ふーん」とのんびりした声で頷いた後にこう言ってきた。
「ならさ……」
――次の瞬間、彼女は俺の方へ眼球だけをスライドさせて、横目で少し妖艶な笑みを浮かべながら言ってきた。
「……それならさ、いい仕事教えてあげようか? ギルドの書類とか適性検査とか一切いらない。誰でもできる良いお仕事…………」
――この言葉が、この後の俺の一生を大きく変えるものになるだなんてこの時の俺は、まだ知る由もなかったのであった……。
――To be continued.
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