2nd mission イタリアンな場所にて
――ここまでの事を整理しよう。
俺は、自分にそう言い聞かせて頭の中でこれまでに起こった出来事を思い浮かべていった。
――まず、俺は大卒ニートだ。就活に失敗し、人生に絶望していた。毎日、家の中で適当に過ごして時間を潰していたわけだが……そんなある時、突然俺は風邪をひいた時のような眩暈を起こし、熱っぽさを感じたため、一度眠る事にした。――だが、
俺が眠りから覚めるとそこには、大自然が広がっており、自分の知らない場所に飛ばされていた。……ここが何処なのか探し回った俺は、イタリア風の石とレンガでできた町を見つけた。そこで俺は、理解した。異世界に飛ばされた。……というわけだ。
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――とにかく、町へ向かってみよう。
自分の中で色々と整理のついた俺は、森から町へと伸びる一本道を歩く事にした。……歩きながら自分の周りのあちこちに視線を移して見てみると、畑が見えてきた。
耕された土、収穫の時を迎えた野菜や果物、麦などの穀物。麦穂が風に揺れる姿が見える。また、時々人の姿も見えた。
世界名作劇場などに出てきそうな見た目の白い髭のお爺さんや作業着を着て大きな帽子を被った畑仕事をする若い女性。中には、タオルをハチマキのようにして頭に結び付けて、ランニングシャツと下は作業着のズボンを履いた中年くらいの歳の男性の姿もあった。
――中世ヨーロッパって言っても、あぁいうハチマキの格好をする人ってのは各国共通なのかな……?
俺は、そんな事を思いながら更に足を進めた。すると、しばらくして今度は家畜の農場のエリアにやって来た。現実世界でも聞いた事のある牛や豚、鳥に羊の鳴き声が聞こえてくる。
「……へぇ~、この世界にも牛がいるのか!」
そう思って俺が、牧場の方を見てみるとそこには、俺のよく知る肉牛の姿があった。
――こういう所は、現実世界と変わらないんだな……。
俺が、そんな事を思っていると……ふと自分の後ろから何か変な違和感を覚えた。
「……!?」
違和感を察知した俺が、すぐに後ろを振り返ってみるとそこには、牧場で働く人の姿があった。白いボロボロの布を着て、黒い作業用ズボンとジャケットを身に着けたその如何にもヨーロッパの農民って感じの格好をした白髭がもじゃもじゃしたお爺さんが、俺の事を睨みつけていた。
――通りで何か視線を感じると思ったら……睨まれてたのか。なんだぁ? 俺が、見ない顔だからか?
俺は、そんな事を思いながらさっきよりも歩くスピードを上げて早歩きで町まで向かって行った――。
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それから町までは、わりとすぐに到着できた。俺は早速町の中に入って、すぐにびっくりした。
「……すげぇ。遠くから見たまんまだ! マジでイタリア風の石が積まれた建物に……。石畳の道。……それに壁や至る建物に石だけでなく赤いレンガも使われている! 中世イタリアの小さな町って言えば良いのかな? なんか、それっぽい」
町のあちこちを見渡して、俺は感動した。町の中には、しっかりと大きな教会まで建っているのが見える。
俺は、ひとまず町の中を歩く事にした。すると、すぐに町のあちこちから視線を感じた。
――さっきの農民の爺さん達と違って睨みつけたりはしてこないけど、でもチラチラ自分の事を見ている気がする。やっぱり、部外者だからか?
しかし、俺はそれでも先に進む事にした。そして、少し歩いた先で俺は、とあるお店の窓ガラスを見かけた。
「へぇ~、こんな感じなのかぁ~」
その大きな窓ガラスに写った自分を俺は初めて見た。見た目は、黒髪の直毛。しかし、少しだけ癖もついており、少しボサボサしていた。また、服装もさっき自分で見た通りで黒い長ズボンに白い長袖のTシャツ。白い肌をしていて、そして何より俺とは思えない程痩せていた。
「……おいおいおい~。モデルでも目指せちゃうんじゃな~いの?」
そんな独り言を言っているとまたしても自分の後ろから強い視線を感じる。
――おっと……。ヤバイ。ただでさえ部外者って事で睨まれているのに……あんまり目立っちまったらまずいよな……。
俺は、そう思ってすぐにガラスの前から離れて歩き出した。
――とにかく、今の自分では、この世界で生きていく術がない。現実世界では、親がいた。だから、養ってくれていた。しかし、この世界では……見た感じ両親はいない。ならば、やはり自分で何とかするのが普通だろう……。
「町があると言う事は、仕事だってあるはずだ。……探してすぐにでも職を手にしないと……」
俺は、そう思いながら仕事を貰えそうな場所を探し回った。しかし……。
「ダメだ。何処になんの建物があるのかとか……そう言うの全然分かんない。ていうか、そもそも文字読めないし……。完全に詰んだなこれ……」
俺は、町の真ん中にある噴水の所に腰かけて溜息をついた。この間にも町の人々からの視線が痛かったが……もう気にしちゃいなかった。少ししてお腹も鳴った。
「ヤバいなぁ……。とにかく何か食べるものも欲しいし…………」
俺は、そんな独り言を言いながら下を向いて座っていた。すると、そんな時にだった。
「……貴方、どうしたの? こんな所で……」
顔を上げて見るとそこには、1人の女性が立っていた。その女性は、右目が金色で左目が茶色のオッドアイで、明るい茶色のサラサラした長い髪の毛に白いタイトなドレスを身に纏った白肌で背が高く、豊かな胸と、ドレスのスカートからくっきり浮かぶ丸い円が特徴的な少しセクシーな見た目の女性だった。
その女の人が俺に優しく声をかけてきたのだ。俺は、つい少し緊張してアワアワと唇を震えさせながら言葉を発した。
「……あっ、えっ……えーっとその……実は、仕事をさがs……」
しかし、そうして説明をしようとした途端に俺のお腹が大きく鳴った。それは、まるで眠っている怪獣がいびきをかいているようなそんな爆音で、白いドレスの女性もクスッと笑った。
そして、自分の手に持っていた買い物袋のようなものに手をつっこんでその中から小さなフランスパン(?)のようなものを取り出し、半分に千切って俺の方へ渡してくれた。
「はい! どうぞ!」
この瞬間、俺の瞳の奥から涙が溢れ出た。人にこんな優しくされたのは、久しぶりだった。ましてや、この世界では初めての事だった。だからか、俺はいつの間にか涙を零して感謝の言葉を述べていた。
「ありがとう! ……ありがとうございます!」
そして、女性の渡してくれたパンをかじりながら俺は、彼女に自分の置かれている今の状況を説明する。すると、女性は納得した表情で僕に言ってくれた。
「それなら、私がギルドまで案内してあげるわよ! 仕事なら、まずは適正を見て貰いましょうよ!」
「適正……?」
俺の疑問に対して女性は、優しく説明してくれた。
「えぇ。アナタが何の仕事に向いているのかを魔力を見て判断するのよ」
「まっ、魔力!?」
俺は、この言葉にしばらくの間ポカーンとしていた。魔力って……だって、それって……!
すると、女性が不思議そうな顔をして僕に説明してくれた。
「……えぇ。魔力よ。誰にでもある。自分自身の心が作り出した魔法を行使するための力……よ?」
女性からすれば、魔法を使う事も魔力の存在に関しても普通の事なのだろう。だから、僕の反応にとても困った様子を示していた。
だが、いやいや……でも喜んじまうってこんなの! 魔法のある世界にやって来たんだ! 前の現実世界で生きていた人達ならきっと皆、魔法使えるよ! と言われたらこういう反応をするに決まってるぜ!
俺は、さっきまでの不安も何も全て吹き飛んで大喜びだ! すぐに女性から貰ったパンの残りを口の中に押し込んで、そして立ち上がって彼女に言った。
「……行きましょう! 連れて行ってください! そのギルドという所へ!」
――そうだ。今、始まったんだ。俺の異世界での新たな物語は、今ようやく幕を開けた。そして、ここから……前の世界では比べ物にもならない位最高の日々を過ごすんだ……!
――To be continued.
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