異世界に来て最初のミッションは、美少女を運ぶ事でした。

上野蒼良@作家になる

1st mission 転生? 転移? 俺は何者? ここは何処?

 ──パッと目覚めるとそこは、別の場所だった。しかも自分の全く知らない場所。さっきまで雨が降っていたはずなのにいきなり快晴の青空で、電気をつけていない暗い部屋の中にいたはずなのに、突然外の……しかも草が伸びた地面の上に寝転がっていて、周りを見渡すと木があちこちに伸びていて、緑が青々と茂っていた。あちこちから鳥の囀りや意味わかんない小動物の鳴き声も聞こえてくる。


「なんだぁ? この田舎くせぇ場所は? 母さん! 俺が熱っぽくて寝てる間に何勝手にお出かけ始めてんだよ! ここは何処だ? 岩手のばあちゃん家では、ねぇよなぁ!」


 俺は、寝転がったままそんな事を叫んでみたが誰からも返事はなかった。いや、それどころか人の気配すらない。鳥と小動物が動き回ってる気配しかないのだ。流石の俺もこれは少し驚いたし、何より怖かった。


「かっ……かーちゃん?」


 かーちゃんの気配はない。それどころか時間と共に眠気がなくなってきて、だんだん目が冴えて来るに連れて自分が今、どんな場所にいるのか分からなくなってくる。この知らない所に迷い込んでしまった感じが俺の恐怖心を煽る。俺は、キョロキョロと辺りを見渡してから勢いよく立ち上がり、重たい自分の体を持ち上げて足を1歩2歩と前へ進めてみる。


 ──やっぱり、草の感触だ。って、ていうか……俺、裸足じゃねぇか! どうなってんだよこれ!




 恐怖心が、最高潮に高鳴った俺の耳元に鳥達が翼をバタバタさせて鳴き声を上げながら飛び去っていく音が聞こえて来る。これを耳にしてから俺は、我慢できなくなってこの大自然に囲まれた森みたいな所から逃げ出すようにただひたすら走り出した。



「あっ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 怖かった。この何とも言えない異世界感がとんでもなく怖かった。連れ去られてしまったのか……迷い込んでしまったのか? 異界への扉を開いてしまったのか……。俺は怖くて怖くてひたすら逃げた。何も分からずとにかく逃げた。













 そしてついに足も限界を迎え出した頃、俺の心にはまだどうしようもなく大きな恐怖が残っていたが、足が動けなくなってしまい、走るのをやめて勢いよくその場にうつ伏せになって寝転がった。俺は独り言を喋った。


「ちくしょう……。高校までバスケ部で体鍛えてたのに……。1年ニートやってただけでここまで運動神経落ちるだなんて……。っていや、そうか。大学も俺、ろくに運動してなかったんだ。だぁ〜ちくしょう」



 こんな独り言でも言っていないと正気なんて保てない程、頭の中はグチャグチャだった。どうしたら、うちに帰れるのだろうか? どうして自分がこんな目に合わねばならないのか? 大学4年間遊んでいたから? 就活に失敗したから? 1年間のニート生活? それとも23歳童貞である事か? 



 何はどうあれ俺はとにかく今、帰りたかった。



「帰れるなら前の世界でやった事は反省もするし、二度とやらないと誓う……だから、もしも神がいるのなら俺を……俺をここから出してくれ……」



 僕は、半泣きの状態でうつ伏せから正座の体勢になって上を見上げながら祈るようなポーズでそう言った。でも、空から返答が返って来ることはなく、俺はさらに絶望した。そしてしばらくして立ち上がり、とぼとぼと歩き出した。



 だが、何処をどう行っていいのか分からず、俺は下を向いた状態であてもなく3時間以上彷徨い続けた。


 独り言が止まらなかった……。



「……ハハハ。そうだよな。きっとこれは罰だ。高校3年間バスケだけし続けたせいで、クソみたいな大学に入って、そこでアホみたいに遊んで、気づいたら就職の年。でも何もやってなくて仕方なく就活してみても内定は0。親のためにもと卒業だけはして、働き口をその後も探し回ったけど、見つからず……だんだんバイトもめんどくさくなって、気づいたらニートだったんだ。きっと神は、そんな俺に罰を与えるためにこんな仕打ちをしたんだろうな……。今までの人生で良かった事なんてせいぜい、小学校の頃のお楽しみ会で得意だったけん玉を披露して一時的にクラスの人気者になれた事。これだけだもんな……」



 俺は、そう愚痴を零しながら歩き続ける。そして更に何度も自分の人生を呪った。俺の独り言はまだ続く。



「……こんな仕打ちを受ける前にせめて……せめてあの子と、幼馴染のあの子に告白したかったなぁ。まぁ、でも無理か。何たって俺、太ってるし……ニート中に10キロ体重増えたしなぁ」



 そう思いながら俺は、自分のお腹の辺りを触ってみた。いつもならポヨポヨしていて大きいお腹がそこにあるはずだった。




 だが、しかしその時の俺のお腹にはポヨポヨなんて存在していなかった。



 ──そう言えば、さっき走ってる時も肉が上下に揺れる感じがしてなかったような……。




 俺は、焦った感じに体のあちこちを手で触って確かめてみた。




 ──間違いない。いつもの俺の体とは何かが違う。上は白い長袖Tシャツ。下は黒い長ズボン。ベルトなども特にしていなく、痩せたお腹と手足、そして何より肌の色も少し白かったし、前髪にチラッと視線を移してみると、髪質も癖っ毛でクルクルしてない程よく癖のある真っ直ぐとした少し伸びた黒髪。顔の形も触った感じ頬っぺたが丸くなく、顎に向かって尖った感じ。



「なっ、何だよ? これ……。これは一体!? 一体誰なんだ! 俺は何者なんだァァァァァァァァァァ!」



 そうして、また再び俺は当てもなく走りだした。











 ──しかし、今度はすぐに立ち止まる事となる。それは自分の目の前に眩しく光る森の出口が見えてきたからだ。



 俺は、ただ何も考えずにそこに向かって走っていき、出口を潜り抜けた。そして、膝に手を置いて激しく息を吸ったり吐いたりした後に俺は顔を上げた。



 すると、そこには広大な芝生と畑が広がっており、その畑が続いた道の先に赤レンガと石で建てられた建物の並んだ中世ヨーロッパの特にイタリア風の町が存在し、街の奥には大きな山が立っていた。



 俺は、この自然の広がる風景と石造りのイタリア風の街を見て昔、引きこもり時代に家で見た異世界転生をするアニメの最初のワンシーンと重なり、そこではっきりと自分がどういう状況に置かれているか理解した。














「……もしかして、俺は……まさか本当に異世界へ来てしまったのか?」






 自分の独り言に対して返事は、やっぱり返ってこなかった。しかしそれでも俺は、自分が確実に異世界へ来てしまったんだと確信した。



























 ──To be continued.

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