第8話 転校生

 三学期が始まった。彩音あやねたちのクラスに転校生が来るという噂でざわつく教室。朝のホームルームのとき担任の水森みずもり先生と一緒に転校生がやってきた。

澤井和也さわいかずや君だ」

と紹介された。偶然にも和也は彩音の隣の席になった。和也は彩音に微笑んで、

「よろしく」

と言った。彩音は下を向いたまま頷き、

「よろしく」

と返す。和也を見ると緊張する彩音。


 次の休み時間、和也の席にたくさんの生徒が集まって来た。春香と翔太もやって来た。

「和也君。よろしく」

「よろしく」


 話をしているところへ、麗美れみと美女軍団が現れた。

「こんにちは」

彩音が

「こんにちは」

と割って入ると、

「あなたには言ってないわね」

麗美れみが言う。

「和也君、今日、吹奏楽部にきてピアノの演奏してくれない?」

「和也君、忙しいみたいよ」

という彩音の言葉に、

「あなたには言ってないわね。あなた彼のマネージャー?」

麗美れみが彩音をにらみつける。

「みんな、和也君の演奏を聞きたがっているの」

「ごめん。ちょっと忙しくて、また、今度……」

「ええ、残念ー」

隣で彩音が微笑む。麗美れみはキッとにらんで、

「なに? さっきから、あなた和也君のなんなの? 彼はピアニストなのよ。陸上部のあなたとは住む世界が違うのよ」

「住むところは一緒よ」

「なに?」

麗美れみが彩音をにらむ。

首を振り慌てる彩音。


 いつになく麗美れみにかみつく彩音に、春香が、

「彩音、何か変よ」

「そう」

「うん、ちょっと変」


 麗美れみが和也に聞く、

「和也君はどこに住んでるの?」

「今は隣町から通ってるけど、三月にこっちへ引っ越してくるんだ」

「へえ、引っ越して来たら、みんなで遊びに行ってもいい?」

麗美れみ図々ずうずうしい。

「来なくていいよ」

彩音が言う。

「あなたの家に行くなんて言ってないわよ」

『しまった』という顔をする彩音。

麗美れみは和也に、

「じゃあね」

と言って美女軍団と一緒に去って行った。


 春香が彩音の顔をのぞき込む。

「彩音、大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 水森先生が、二人のところにやってきた。

「澤井、佐倉。ちょっと職員室へ来てくれ」

彩音と和也は顔を見合わせる。


 二人は水森先生について職員室に行った。

「どうだ、澤井。この学校の雰囲気は?」

「とてもいいです。もう、何人か声をかけてくれたし」

「そうか」

と言って、隣の空いている教室に通された。


「実は二人の両親から澤井の事情は聞いている。澤井が三月から佐倉の家に下宿することも聞いている」

二人は顔を見合わせた。

「これを知っているのは僕と校長。教頭の三人だけなんだ」

水森先生は外を見ながら話した。


「君たち自身もそうだろうけど多感な年頃だ。周りの生徒たちの耳に入ると、父兄も含めて大騒ぎになるかもしれない……」


 水森先生は二人の方に向き直した。

「そこでだ、君たちが卒業するまで一緒の家で暮らしていることは誰にも言わないように気を付けてくれないか」


 二人とも事情は理解できたが、結構なミッションだと思った。それでも、楽しい中学生活になるような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る