第7話 新しい年の朝に

 結局、和也のことを彩音あやねに言い出せないまま新年を迎えてしまった。毎年、元旦の朝は家族で初詣に行く。

 彩音は家族で出かけることを嫌がる風もなく、両親がどこかに出かけるときは一緒に出掛けることが多かった。。

 初詣から帰ってきて、彩音はパーカーにスウェットパンツというリラックスした格好に着替えてテレビを見ていた。


 その時、インターホンが鳴った。

「だれ?」

彩音が玄関のドアを開け、その場に立ち尽くした。


「あけましておめでとうございます」

一人の少年が立っていた。

「なに?」

彩音は言葉を失った。


「あけましておめでとう。あら、彩音ちゃん」

後ろから、母親らしい綺麗な女性が現れた。女性は彩音のことを知っているらしい。

 状況が把握できず、訪ねてきた二人を交互に見る彩音。


後ろから母親の玲子が出てきた。

「ごめんなさい。まだ、彩音に言ってなかったの」

「なに? お母さん」

なんだかわからないが彩音は涙が出てきた。

「王子様」

感情がコントロールできなくなっている。


「彩音ちゃん」

和也が優しく話しかけてくれた。

「あや、彩音ちゃんって言った」

彩音は、もうわけがわからなくなっている。


「ごめん、彩音、今日はお母さんの友達の美和子と和也君が訪ねてくることになってたの」

『何で訪ねてくるのよ』と思った。近所の知り合いやクラスの男子ではない。彩音が憧れ音楽雑誌でしか見たことがないピアニストだ。しかもイケメンで『ドストライク男子』だ。


「どうしよう、どうしよう、ちょっと待ってて」

彩音は二階の自分の部屋に走って行った。


玲子たちは顔を見合わせた。

和也が不思議そうな顔をする。


「ま、まあ、上がって。彩音は舞い上がって行っちゃったけど」

なんだかわからないが、彩音は服を着替えて下りてきた。

リビングに彩音の両親と美和子、和也が座っている。


「彩音も来なさい」

恥ずかしそうにうつむきながら隅の方に座る。

玲子がテーブルに紅茶とクッキーをだした。

「このクッキーおいしいの。貰いものだけど。食べて」


 彩音はずっと和也の方を見ている。見られている和也も彩音の視線に気付いて彩音に微笑む。彩音は真っ赤になって下を向いた。

 四人が何を話しているか、まるで、上の空うわのそらだった。

「三月からよろしくお願いします」

和也がそう言ったのが聞こえた『なにをお願いするのだろう』と彩音は思った。四人の顔を見る彩音。和也の母親が彩音に、

「彩音ちゃん、和也をよろしくね」

と言った。

「え?」

母親の玲子が彩音に言う、

「彩音、和也君、三月から、ここに住むの」

「え!」


「ちょっと、どうしたの……」


みんなの声が遠ざかっていく……


彩音は気を失ってしまった。

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