第3話 春香の想い

  中一の夏休みが終わった。入学して今まで彩音は特に変わったこともなく、男子数人から告白されたが、何か違う気がして断った。


 そんな中、親友の春香が翔太と付き合いたいと彩音に相談してきた。彩音が知る限り翔太が誰かと付き合っているような噂は聞かない。

 春香は性格は控えめ小柄で華奢な彼女は色白で綺麗な女子だ。まったく問題ないと彩音は思っている。


恥ずかしそうに彩音に話しかけてくる春香。

「翔太君に好きな人いるか聞いてもらえないかなあ」

「そうだね。確かめないと何も進まないものね」


 そんな話から数日後の部活で彩音がウォーミングアップをしているとき翔太と二人きりというシチュエーションができた。


「翔太君は今度の大会、何に出るの?」

「おれは百と二百。彩音は何に出るの?」

「百メートルかな」

「そうなんだ」

なかなか本題に入るタイミングがつかめないと思っていたとき、

「ところで、春香ちゃんは何に出るんだろう?」

翔太から春香の名前が出て彩音の方が戸惑ってしまった。

「春香は千五百メートル」

「中距離なんだ」

「すごいんだよ。春香、スタートからゴールまで、ほとんど全速力で走り切るんだよ」

「へえ」

「でも、なんで春香のこと」

「春香ちゃん、好きな人とかいるのかなあ?」

「え?」

彩音は『なにそれ! そういうことだったの?』と思った。

「自分で聞いてみればいいんじゃない?」

「いるって言われたらショックだし」

「そんなに好きなの?」

うつむく翔太。

彩音は微笑みながら、

「ちょっと待ってて」

と言って、彩音は走って行った。


そして春香を連れてきた。何が何だかわからず慌てる春香。突然、翔太の前に連れて来られ赤くなって彩音の方を向く。

「なによ彩音、どうしたの?」

翔太の顔を見られない。

「翔太君がね。春香に好きな人がいるか気になるけど、いるって言われたらショックだから聞けないんだって」

「え?」

驚く春香。上目遣いに翔太を見る。翔太もよそよそしく遠くを見る。


「春香の好きな人が誰か教えてあげなよ。じゃあね」


と言って、彩音は行ってしまった。

遠くから見ていると、二人はいい感じでしばらく仲良く話していた。


 それから、翔太と春香は付き合い始めた。彩音は羨ましさもあったが親友の春香が幸せならいいかと思った。

 麗美は少し不満気にしていたが、その前に翔太に断られていた彼女は、これではっきり諦めがついたようだ。


 翔太は大会で改めて春香の走る姿をきちんと見たようだ。彩音の言う通り千五百メートルを最初から最後まで、ほぼ全速力に近いスピードで走り切る彼女の姿は、短距離の翔太からすると信じられない身体能力のに思えた。何だか益々彼女を好きになったようだ。


 二学期は運動会など慌ただしく毎日が過ぎる。春香と翔太はよく二人でデートをしているようだった。

 そして二学期も終わりに近づき期末テストで忙しくなる。彩音は勉強より身体を動かすことが好きと言いながら、しっかり勉強もするタイプだった。

 小さい頃からピアノの練習で集中力を身に付けていたためか、勉強でも周りから「意外」と言われるほどの成績だった。

 定期テストでは、いつも学年で上位五人くらいの成績で、これには春香も「すごいね」と驚いていた。その春香は学年で上位三人の一人だった。


 期末テストも無事に終わり冬休みに入る頃、彩音に大きな変化が起きようとしていた。

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